
「オモコロ」は、ゆるく笑えるコンテンツに特化したWebメディアだ。2005 年に更新を開始し、テキスト記事や漫画、動画、ラジオなど幅広いコンテンツを毎日発信している。
今回はオモコロ所属のWebライターであり、慶大の卒業生でもある永田智さんに話を聞いた。
◯「日陰者」だった塾生時代
―塾生時代の経験で、今の活動に影響を与えていることはありますか
留年が与えた影響は大きいですね。僕は塾高(慶應義塾高等学校)から慶應に入ったので、大学に入ってからも塾高でできた友だちがいたんですけど。留年したことで、そうした塾高時代の友だちはみんな卒業してしまって…。大学では完全に孤独でしたね。
慶大って世間的には華々しいイメージじゃないですか。実際「慶應ボーイ」的な人もたくさんいて。でも、自分は明確にそっち側じゃない。日の当たらないところにいる人間だという自覚がありました。それが逆に心地よかったですね。「どうしようもないな」という感覚が得られるのが、逆によかった。
当時のインターネット文化って、日陰者たちのものだったんですよ。クラスの隅っこでボソボソ言ってるヤツ、みたいな…。だから、慶大で「日陰者」として生きてきたことで、そのインターネット文化にどっぷり傾倒できたのは大きかったです。
◯オモコロライターとしての人生
―オモコロで活動するようになったきっかけは
オモコロが作られるきっかけになった、テキストサイト文化がもともと好きで。当時のネットは今と違って、回線が弱すぎて動画はおろか音声すら再生が難しかったんですよね。なので、文字で日記とかを発信するテキストサイトの文化が栄えていました。大学生とかが自分の生活を面白おかしくテキストで表現する、みたいな。僕はそれが好きで、中学生くらいから見ていました。
大学生になる頃にはmixiが流行って、そこで自分も文章を書き始めて。それが楽しくて、自分でブログを作ったりもしましたね。
オモコロは元々、テキストサイトをやっていた人たちが集まって立ち上げたサイトでした。僕は初め読者として見ていて。でも、自分がブログとかをやり始めたタイミングで、ちょうど読者投稿大喜利のコーナーがオモコロで始まったんです。そこに投稿してみたら、意外と評価がよくて。投稿きっかけでオモコロの人たちに自分のブログも見てもらえて、そこで誘われて入ったという形です。
―バーグハンバーグバーグ(オモコロの運営会社)に入社した経緯も教えてください
バーグハンバーグバーグができて、すぐに新卒で入社したわけではなくて。1年間は別の会社に勤めてました。その会社を辞めてバーグハンバーグバーグに入りました。
当時、バーグハンバーグバーグ社員の人としていた深夜の通話で、「会社辞めたら?まあ、(バーグハンバーグバーグには)入れないけど(笑)」みたいなノリがあって。そこで「本当に会社辞めたらウケるんじゃないか」と思って、電話をした翌日に辞表を出しました。そこで晴れて入社しました。
◯SNS時代と革新
「オモコロチャンネル」は、オモコロを母体として2019年に開設されたYouTubeチャンネルだ。オモコロチャンネルの開設当初から、演者としてチャンネル運営に携わってきた永田さん。長年ライターとして活動してきた中、チャンネルが始動してから意識に変化はあったのだろうか。
―オモコロチャンネルを始めたきっかけは
バーグハンバーグバーグではずっと広告制作をやっていて。プロモーション用の特設サイトを面白おかしく作って、サイトきっかけで商品を話題化させる、というのを事業としてやってきました。
かつては、「こんな新商品が出るぞ!」というのを特設のサイトで告知してプロモーションするのが一般的だったんです。でも、今の時代は特設サイトってあまり見ないじゃないですか。今は各企業のSNSアカウントで告知するのがほとんどで。こうやって「プロモーションをWebサイトで行う」という文化が衰退していくと、それに伴って、バーグハンバーグバーグがやってきた広告事業も当然需要がなくなっていく。だから何か新しいことを始めないと会社としてやっていけないと思って。そこで新しく始めたことの一つが「オモコロチャンネル」って感じですね。
―オモコロといえばテキスト中心のメディア、というイメージが大きいと思うのですが、動画に踏み切ることに抵抗などはありましたか
最初はやっぱり照れはありましたね。でも、個人的には(オモコロが)一つの形態に囚われる必要はないと思っていて。開設当初から、オモコロライターにはテキストのみの人もいれば漫画を描いてる人もいるし、ラジオをやっている人もいる。そこでやっていく中で徐々に現在の「オモコロっぽさ」が形成されてきました。
なので「オモコロっぽい」Web記事という形式自体には、僕個人としてはこだわりはないし、動画を作ることへの抵抗も特になかったです。楽しいことだったらなんでもいいかなって。そうやって作ってきたものですし、続けていけばそれがまた新たな「オモコロっぽさ」になるのかなと。
―サイトで文章を書くときと、チャンネルの動画を撮るときとで、作り手としての感覚に違いはありますか
僕はあまり違わないタイプです。でも人によるのかな。
ただ、文章と動画では視点は変わりますね。文章を書くときは主観で、動画のときは客観。文章は自分で執筆するから自分視点になるけれど、動画は自分が撮られてて、編集はオモコロチャンネルの場合は別の人がやるので。文章だったら、自分がどう感じたかとか、どう思ったかとかを自分の目線で書ける。そこの違いはあります。
最近だと、オモコロ杯(オモコロ主催の賞レース)で送られてくる作品を読む時もそれを感じますね。近年は自分ごとの感情にフィーチャーする記事が増えていて。例えば、「自分の中の勝手なルールを説明する」みたいな。そういうのって、動画で言ってもあまり伝わらなくて、ただただ変なことを言っているだけになってしまいがちなんですよ。動画だと相手も瞬間的なリアクションしかできないし。でも文章にすると、その本人の感覚的な部分を時間をかけて言語化できる。個人の中にあるミニマムなものを伝えていくには、やっぱり文字の方が分かりやすく書けると思います。
―炎上は気にしますか
気にはしますね。でも、炎上しちゃう時はしちゃうものなのかなと思ってます。めちゃくちゃ悪意があって起きた炎上は別として、単純な知識不足で起きた炎上は…仕方ないとまではいきませんけど、もう謝るしかないかなって。明らかに特定の層に対して悪し様に言ったり、誰かの悪口言ったりとかで起きた炎上は、「お前が悪いだろ」としかならないんですけど。
悪意がなければ、そしてしっかり謝れば、致命的にはならないんじゃないか、と勝手に思ってます。人間ミスはするものなので。でも、ミスっても何とかなる。これは慶大で留年というミスをして得た学びです。
―炎上を気にして、やりたいことにリミッターがかかることはありますか
炎上を恐れてやりたいことができない、と嘆く人ももちろんいるんですけど。アングラなことができなくなった…みたいな。でも僕は、そういう制約の中でどう工夫して面白くするか考えるのを楽しんだ方がいいと思ってます。世の中は変化していくもんだし、変化を楽しめなくなったら、そっちの方がきつい気がします。
オモコロも、規模が大きくなることでやれることも増えるし、やれないことも増える。その中で楽しんでやっていくしかないんじゃないかな。
―今のネットは、利用者層が広がった一方、コンテンツが飽和しているとも言えます。消費コンテンツが溢れている中で、オモコロが今日まで生き残ってきた要因は何だと思いますか
俺がいたからです。
すみません、嘘です。なんだろう、みんな面白いからかな。バカみたいな回答だけど、メンバーの面白さを疑ったことってないんですよね。こいつら、なんて面白いんだと日々思ってます。
◯おわりに
―塾生になにか一言ありますでしょうか
僕は留年を2回してるし、ゼミとかサークルも入ってないし、大学に居場所を感じたことがなくて食堂すら怖くてほとんど行ったことないし、目に映る全慶大生を憎んでました。なのでやっぱり、同じように日陰にいる人たちに「今は学校のことが憎くても、いずれ許せる日が来るよ、多分」と言いたいです。僕も一昨年くらいにようやく許しました。
いや、別に学校に何かされたわけじゃなく完全に自業自得なんですけどね。逆恨みするから怖い、そしてだから強い、日陰は。
【プロフィール】
永田智(ながた・さとし)
1987年生まれ。東京都出身。2009年より、Webメディア「オモコロ」のライターとして活動。オモコロを運営する、株式会社バーグハンバーグバーグの副社長。
(安田理子)