初夏の陽気が続く7月。日本の夏には、扇子や風鈴など「涼」を味わうための知恵がある。今回は、1718年に開業した伝統工芸品「京扇子」の老舗メーカー「白竹堂」の山岡勢也さんに、京扇子の魅力や伝統工芸品の現状について聞いた。

白竹堂の京扇子「花詩」

時代のニーズに合わせた京扇子

京扇子とは、製造や加工、仕上げがすべて京都や滋賀を中心とした国内で行われた扇子のことを指す。さらに、「京扇子」の名称は「京都扇子団扇商工協同組合」が有し、組合員だけが使用できるものだ。完成までに約88の工程があり、各工程を熟練の職人が担う分業体制を採っている。「高い技術を持つ職人が手作業で作っているので、一つ一つの製品のクオリティが高いのが魅力です」と山岡さんは話す。

熟練の職人による手作業で作られている

白竹堂ならではの魅力は「伝統を継承しながら、なるべく現代の生活スタイルに合った京扇子を提供していること」であるという。革やデニムなどの素材を取り入れたものや、人気アニメやアーティストとコラボしたものなど、多種多様な京扇子を世に送り出している。

伝統に新しい風を吹き込むことに葛藤を感じたこともあるというが、「白竹堂の発展だけでなく、扇子文化、ひいては伝統工芸品全体を発展させることに対するワクワク感の方が強いです」と山岡さんは笑顔で語った。

 

伝統工芸品をまずは手に取ってみて

職人の高齢化や後継者不足などの深刻な問題を抱えている伝統工芸品。近頃、焦点が当てられる機会は増えつつあるが、伝統工芸品が日常生活で使われる機会は依然として少ないと山岡さんは考える。さらに、扇子の代わりに小型扇風機が普及する中、どのように扇子の良さを発信していくかに頭を悩ませたという。「学生の皆さんは、まず京扇子を手に取って、日本の伝統文化に触れてみてください。そこから、古の時代に思いを馳せ、なぜ現代に至るまで京扇子などの伝統工芸品が使われてきたのか、考える機会を持ってほしいですね」

京扇子の魅力を語る山岡さん

ファッションの一部として

小型扇風機にはない、扇子ならではの良さは「ファッション性」だと山岡さんは話す。和服だけでなく、スーツに似合うフォーマルな扇子など、どんなファッションにも取り入れやすい扇子を作る白竹堂。「江戸時代の人は、流行に応じて扇面を張り替えるなど、扇子をファッショアイテムと捉えていました。現代においても、さまざまなデザインの扇子を持つことは、ファッションに多様性を持たせる一つの方法でもあります」と山岡さんは提案する。

ファッション性も兼ね備えた京扇子

伝統工芸品とSDGs

使い捨ての製品が多い現代。伝統工芸品が持つ「ものを大事にする」という考えは、SDGsにもつながる。白竹堂はSDGsへの取り組みの一環として、車に使われる素材の中で廃棄が難しいエアバッグを使った京扇子を開発した。

 

白竹堂の信念

「ただ新しいだけでなく、良い物を作っていかなければならない」と山岡さんは語る。良い物を手頃な値段で提供するという意味を持つ「物良價廉(かれん)」が白竹堂の信念の一つだという。「良い物を高く売るのは当たり前。そうではなく、手に取りやすい価格設定にし、より広く皆さんに使っていただくことが白竹堂にとっての一番の幸せです」とにこやかに語った。

白竹堂本店の外観(京都)

扇いで涼しく、目で見て美しい。そのような扇子を使えば、五感で「涼」を感じられる。今年の夏は、扇風機のスイッチを押す前に扇子を手に取ってみてはいかがだろうか。

 

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堀内未希