約2年にわたる耐震・改修工事が終わり、仮囲いに覆われていた旧図書館が再び青天の下に姿を現した。長年にわたり「大学の心臓」としての図書館の役割を果たし、現在では慶應義塾を象徴する建造物となった旧図書館。そこには受け継がれていく思いがある。

 

旧図書館の歩み

旧図書館は慶應義塾創立50周年を記念して1912年に建てられ、慶應義塾におけるはじめての近代的図書館となる。その建築費用は国の支援を受けず、民間の寄付で賄われた。さらに、鎌田塾長(当時)の「図書館は不燃物で建てられなければならない。しっかりお金をかけて長く後世に伝える建物をつくる」という意向のもと、当時としては最先端の技術による耐震・耐火構造が備えられた。

その後、関東大震災と東京大空襲を経験したが、この優れた建築構造が書物を焼失から守ることとなる。1982年新図書館の竣工により、閲覧や研究、学習スペースとしての機能を譲ることとなるが、重要文化財としての旧図書館は義塾を象徴する建造物となり今日に至る。

 

重要文化財としての旧図書館保存事業

今回、約35年ぶりに旧図書館の改修工事が行われた。重要文化財としての建物を保存するため、非常に高度な技術が必要となるレトロフィット工法による耐震工事が採用された。外面の修繕も加えて行われ、非常に手間とコストがかかる工事内容となった。

一方で、この最先端技術が、建築当初の思いを受け継ぎ、旧図書館を「長く後世に伝える」ことを可能にする。また、東京大空襲の熱で曲がった屋根組は戦争の悲惨さを後世に伝えるため、残したまま補強することが決まった。

 

塾生が貴重書に触れる機会を

今回の工事を機に書物の再配置が行われ、関連書物の参照がよりしやすくなった。施設をまたいで学習・研究をしなくてもいいように配慮がなされている。大学に所蔵されているたくさんの貴重書に、なるべく多くの塾生が触れてほしいという図書館側の思いも、今回の改修工事にはある。

正面玄関の開放については、塾史展示室の整備のためもう少し時間がかかる予定だ。

 

受け継がれる思い

旧図書館は最先端技術により、甚大な被害を受けつつも戦禍から守られ、その後も後世に受け継ぐ努力がなされている。まさに、「ペンは剣よりも強し」という言葉を体現している建物のように思える。実際に旧図書館へ足を運び、曲がった屋根組や、武士が馬から降りて文明の女神に相対する様子が描かれるステンドグラスを見れば、身をもってその言葉を感じることができるだろう。

 

(猿橋昴燿)