アインシュタインによる一般相対性理論の発表から今年で100年。この理論から導き出されたのが「ブラックホール」という概念だ。どのようなものか想像はできても、実態を知ることはきわめて難しい。そんな謎に包まれたブラックホールを第一線で研究している、慶大理工学部物理学科の岡朋治教授に話を聞いた。

まずブラックホールについて簡単に説明しておこう。ひとことで言えば、高密度かつ大質量の天体だ。星の進化の最終段階で、特に質量の大きな星が自らの重力で収縮し続けることにより生じると考えられている。重力があまりに強く、物体が天体表面から宇宙空間へ脱出するのに最低限必要な速度が光速を超える。そのため、光を含めすべての物質を吸い込んでしまう時空領域となっている。

岡教授はこれまで、「なぜ銀河の中心には超大質量のブラックホールがあるのか」という問いを軸に研究を進めてきた。2012年に銀河系でブラックホールの痕跡とみられる巨大星団を発見したことを筆頭に、2014年にはブラックホールから吹き出す竜巻の原因を解明。さらに今年1月には銀河系で2番目に大きなブラックホールの兆候を観測するなど発見が続いた。

その際、自ら輝く天体のみをX線で検出する方法に代わり、分子スペクトル線を用いて、自ら輝かない本当に「ブラック」なブラックホールを見出す手法を生み出した。新しいだけに今は賛否両論であるが、ブラックホール候補天体の飛躍的な増加につながると期待されている。

このように、岡教授の研究室は銀河系中心の電波観測という分野でトップを走る。「知っているのは自分だけかもしれない」と思う瞬間を感じられることは研究の醍醐味だという。実は「研究」と身構えることなく、興味の赴くままに目の前にある疑問へせまっていくタイプなのだそう。普段は大学院生と助け合いながら和気あいあいと作業をしている。「彼らが将来研究者になるかわからないが、一瞬だけでも最先端に触れることは、きっと人生をより実り多きものにする」と語る。

遥か遠くにあるかもしれない未知の世界と日々向き合う。この壮大さは天文学に限らず、すべての学問に通じているのではないか。
(原科有里)