
今回紹介するのは読んだことがある人も多いであろう、東野圭吾の「クスノキの番人」である。累計発行部数は100万部を超え、多くの反響を呼んだ作品であるが、なんと2026年にアニメーション映画化されるそうだ。
あらすじ
夜中は予約が必須の、クスノキへの祈念。不思議なクスノキの力を求めて、多くの人が訪れていた。
一方、主人公・直井玲人は職を失い、ある事件をきっかけに逮捕されてしまう。しかし、ある依頼人から「ある条件を飲めば釈放する」と提案される。――その条件とは――
「あなたにお願いしたいこと、それは“クスノキの番人”です」。
番人としての仕事を始めた玲人は、ある夜、人影に気づく。
「何かご用ですか」
そこにいたのは、一人の女性だった。
クスノキの番人として過ごすうちに、玲人はさまざまな出来事を経験し、このクスノキに隠された秘密に触れていく――。
感想
東野圭吾作品らしい意外な展開が、この物語を勧めたくなる最大の理由。クスノキの番人という、現実に存在するのかも定かではない奇妙な職業に、なぜ玲人が選ばれたのか。その謎を追いながら、気がつけば一気に読了していた。「クスノキの番人」は、ミステリーでありながらも、どこか心が和らぐ優しい物語。東野圭吾の作品は、一度読み始めると時間の感覚が消える。何を読むか迷ったときには、他の著作にも自然と手が伸びるはずだ。
余談
数多くの作品が映像化されてきた東野圭吾作品の中でも、「クスノキの番人」は初めてアニメーションとして映画化される点で際立っている。日本に現存する最古のアニメーション映画は、1917年公開の「なまくら刀」とされている。それから1世紀以上を経て、日本のアニメーションは世界的にも突出した存在となり、とりわけ過去10年で画質・演出・物語表現のあらゆる側面が飛躍的に進化してきた。
そのような状況の中で、本作がアニメという表現手段でどのように再解釈されるのか、非常に興味深い。原作がもつ静謐さ(せいひつさ)や人間味、そして不可思議な温もりが、現代アニメーションの技術と融合することでどのような作品が生まれるのか、公開が待ち遠しい。
おわりに
近年、大学生の読書量は減少傾向にある。学業やアルバイト、サークル活動など、日々の生活に追われる中で、本を手に取る余裕がなくなっているのかもしれない。それでも、「クスノキの番人」は、そんな慌ただしい日常の中にあっても読んで損のない一冊。ページをめくるごとに、心がふっとほどけていくような感覚がある。
少し疲れを感じたとき、本作をぜひ手に取ってほしい。そしてこの物語が、ほんの少しでも読者の心を温めてくれることを願う。
(濱陽貴)