2011年3月11日、東日本大震災が被災地の人々の暮らしを壊していった。鉄道や道路などの交通インフラもその例外ではなかった。三陸鉄道は、大津波によって鉄路や駅舎に大きな被害を受けた。被災地の当時と現在を見つめたいと思い、地域住民と共に走り続けてきた三陸鉄道の軌跡を取材した。

「地域の足」として走り続ける三陸鉄道

1984年4月の北リアス線、南リアス線の開業以来、三陸鉄道は、岩手県の三陸沿岸を走り続けてきた。1日約5000人(2019)が利用する三陸鉄道は、地域住民にとって欠かせない存在だ。2013年にはNHK連続テレビ小説「あまちゃん」のロケ地として使われるなど、観光地としても人気だ。2019年3月23日、山田線の宮古―釜石間が、JR東日本から三陸鉄道に移管された。これを機に、三陸鉄道リアス線(盛−釜石−宮古−久慈)の走行距離が163kmとなり、第三セクター鉄道では日本一長い路線となった。その駅の数は41箇所にものぼる。

企画列車 「あまちゃん」で人気に

三陸鉄道では、岩手県沿岸を縦断する線路を活かした様々な企画列車が走る。

「あまちゃん」の主人公天野アキが、お座敷列車で歌手活動をしていたシーンが記憶に残っている人も多いのではないだろうか。他にも、リアス海岸の海を望みながら、三陸の美味しい海の幸が楽しめる。特色のある企画列車は三陸鉄道の旅客営業部の担当がアイデアを出し、社員の意見を踏まえた上で決定に至る。

あまちゃんが放送されていた当時は、震災後にも関わらず乗客数は1年で2300人にものぼった。「あまちゃん」の人気は海を超えて広がり、台湾から三陸鉄道に乗りに来た乗客もいたという。

被災と復旧の「10年」

東日本大震災で被災した区間のレールを切って加工し台座をつけて販売するなど、着々と復旧に向けて準備を進めた。2012年には久慈−田野畑間が復旧開通したことで、こたつ列車が再開し、震災学習列車の運行も始まった。担当者は「震災の経験を多くの人に知ってもらい、今後の災害対応に少しでも役立ててもらうために始めました。企業、大学、自治体などの研修としても活用してもらっています。特に、2020年は、新型コロナの影響で、県外に修学旅行へ行けない岩手県内の学校団体に利用していただきました」と話す。震災学習列車は、新しい乗客の三陸鉄道の利用にもつながっている。南リアス線、北リアス線共に全線が復旧したのは、2014年春。甚大な被害からたった3年で、復旧を遂げた。

久慈駅―陸中宇部駅間を走る三陸鉄道(写真=提供)

2019年の三陸鉄道リアス線の開通に伴い、さらにたくさんの乗客が全国各地から訪れたが、同年10月の台風19号の影響で、全長163㎞のうちの約7割が不通となった。「2020年度は東日本震災前と比べても回復したとは言えない状況でしたが、全線の乗客数が、前年比で倍増しました。2020年3月にリアス線が全線復旧しましたが、今度は新型コロナウイルスの影響で、お客様が減っています」と三陸鉄道の復興の難しさを語る。

被災による人口減、内陸などへの転出で沿線人口が減少しており、厳しい状況は続く。さらに、新型コロナウイルスの影響で、観光客が大幅に減少し、団体ツアーや貸し切り列車のキャンセルが増えている。

三陸鉄道は、震災を経験して、非常時の災害マニュアルを大幅に見直し、より安全な鉄道を目指しているという。

三陸鉄道が向かう未来

最後に、ローカル鉄道と観光スポットという二つの役割を併せ持つ三陸鉄道の可能性について聞いた。

「新型コロナの影響で、震災学習列車に県内の生徒さんが乗って学んでいただく機会がありました。今後も震災を風化させないという役割を果たしながら、地域に密着した鉄道として、岩手だけではなく東北を盛り上げていきたいです」

新型コロナウイルスの感染が収束したら、東北を訪れてみてはいかがだろうか。こたつ列車に乗って、美味しい海の幸を楽しみながら、東北の未来に思いを馳せる。三陸沿岸で、そんな素敵な旅があなたを待っている。

小島毬