
あらすじ・本作の特徴
ある”死んだはずの魂”は、「プラプラ」という天使とある”契約”を交わす。その契約とは、自ら命を絶った中学3年生の少年「小林真」の人生を代理でやり直す、というものだ。家族・友人・恋愛と、あらゆる人間関係につまずいてきた真の人生。そんな人生を主人公が生きていくにあたり、多くの人が思春期に悩まされたであろう、心の不安定さや孤独感が丁寧に描かれている。
感想
全体を通して特に印象的だったのは、自らの視野の狭さにより実は自分を気にかけてくれていた存在に気づけなかった、真の姿だ。しかし、それはきっと私たちも同じではないだろうか。私たちも、忙しなく続く日々や自分の悩みに囚われ周囲のことを忘れてしまいがちだ。でも、そんなときこそ深呼吸をして周りの人たちと見つめ合いたいと私は思う。そうすれば、自分が見過ごしていた相手なりの優しさや思いやりを見つけることができるはずだ。そんな“当たり前のようで忘れていたこと”、あるいは”当たり前すぎて気づいていなかったこと”を、本作は優しく思い出させてくれる。
また、人間というものは噂や先入観によって他人のことを判断しがちだ。真の周囲も、彼を理解しようとせず、表面的な姿や様子を理由に距離を取っていた。その構図は、私たちの生きる世界にも通じるのではないだろうか。「自分だって真の周囲と同じことをしていないだろうか?」と気づかされたとき、「決めつけなしに他人と接することは可能なのか?本当に誰かを思いやるとはどういうことか?果たしてそれを実践できている人は存在するのだろうか?」と思った。しかし、その疑問すらまた他人のあり方を決めつけているに他ならない。このように、”先入観”をなくすことはとても難しい。偏見や差別が絶えないこの世の中では尚更だ。
それでも、私は私のできる限りで、相手の気持ちや背景に寄り添う姿勢を持ち続けたい。本作はそんな“人としての理想”を静かに語ってくれる傑作だ。生きることに疲れたとき、心がすり減ってしまったとき、この本は温かく寄り添ってくれるだろう。読み終えたときにはきっと、「世界は思っていたよりカラフルかもしれない」と、少し前向きになれるのではないだろうか。
(前田真子)
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