運用開始も相次ぐ不具合

このように「システムとしての検証が時間的に間に合わず、確認が不十分なまま運用に至った」(経済学部)が、問題は運用開始後早々に発生した。具体的には、出願完了のメールが届かない、何度願書をアップロードしても記録されない、通信エラーが発生し登録ができないといった、出願に関わる重大なエラーが目立った。

こうした初期段階での不具合を受け、経済学部は急遽使用方針を転換。経済学部長と経済学部学習指導主任の連名で、ゼミカンの用途を願書の提出に限定したほか、2月3日までであったA日程登録期間を5日まで延長する旨を発表した。しかし、不具合が多発したことに加え、ゼミカン用途の限定により課題レポートの提出先が急遽変更となったこと、またゼミごとに対応がさまざまだったこともあり、混乱する学生が後を絶たなかった。

こうした事態を受け、経済学部と経済学部ゼミナール委員会は、登録期間最終日となる2月5日に、ゼミカンの運用中止を決定した。B日程以降の出願・資料提出にゼミカンは使用せず、登録はGoogle Formで、資料提出は各ゼミの指示によることとなった。

 

運用中止を決定した経済学部ゼミナール委員会は、「志願者の皆様、各ゼミ入ゼミ担当の皆様、そしてゼミを担当していただいている先生方に多大なるご不便とご迷惑をおかけしたことを深くお詫び申し上げます」としている。

経済学部は今回の一連の件について、持続的・安定的な入ゼミ選考登録の仕組みについて検討が必要だったとした上で、次のようにコメントした。

「多大なご迷惑をおかけしたことについて、学部として重ねてお詫びいたします。入ゼミ登録制度の総合的な改善については引き続き検討しなければならないと考えていますので、引き続き皆さんのご理解とご協力をいただきたいと思っております」

なお今回発生した一連の不具合について、慶應義塾Fin-TEKセンターはHP上にて、「検知された全ての障害に対する原因分析と対応が完了している」と説明する。

 

他用途にも運用可能なアプリ

今回、塾生から挙がった最大の疑問点の一つがSTARアプリとの連携だ。そもそも、「ゼミカン」は、経済学部経済研究所Fin-TEKセンターとIGS社との連携事業として開発・構築されたSTARの仕組みを利用して構築されたシステム。データを暗号化して分割し、その一部をブロックチェーンに載せることで、学生本人が個人情報をコントロールできるのが最大の特徴となる。

しかし、ゼミカン登録の際、STARに個人情報を提供する必要があったため、個人情報がどう管理・運用されているのか疑問視する学生の声が多数聞かれた。また、ゼミカンの運用中止が発表された後も入ゼミ希望者宛てに企業からイベント情報が送られるなど、ゼミ入試のためにSTARへ登録した学生からは、不信感を募らせる声も少なくなかった。

そこで、経済学部経済研究所Fin-TEKセンターはSTARに登録した商学部の学生を対象にSTARシステムの概要説明と共に継続確認のメールを送信。3月16日にはSTARシステムに関する説明会を実施した。なお、経済学部の学生は3月18日以降、いつでもSTARから退会することができる。

 

経済学部経済研究所Fin-TEKセンターはゼミカンについて、「急な導入だったことに加え、事前の説明が不十分だったことはお詫びしたい」とした上で、次のように説明する。

「学生の皆さんがSTARに載せていただいた個人情報は最も安全でコントロールの行き届いた場所で保管されている。ブロックチェーンは誰かの所有物ではないため、学生本人がコントロールすることが可能であり、企業やSTARはそれらを閲覧することができない」

STARシステムはデータを安全に共有するプラットフォームであり、画期的な情報管理システムである点を経済学部経済研究所Fin-TEKセンターは強調する。

なお、Fin-Tekセンターは来年度以降のゼミカンシステムの運用については未定だとした上で、仮に使用することになった場合、次のような基本計画を挙げる。

 

  • STARの暗号化技術を利用し、今回とは別次元の個人情報保護を強化した仕組とする
  • 個人のデータを暗号化して分割し、第三者提供リスクを個人が管理できる仕組みに
  • 本人がゼミ教員に情報を提供することを許可したのち、教員や個人が秘密鍵をなくした場合、情報は誰も閲覧することができないシステムに

 

株式会社IGSとの関係についてFin-Tekセンターは、「STAR」のシステム構築を担っている株式会社IGSとは共同研究のパートナーであり、両者の間で金銭的利益が発生するものではない」としている。