受験当日は誰もが強い緊張や不安を感じるものだ。実力を発揮できるか不安な受験生も多いだろう。本企画では、慶大「学生相談室」の岩佐さんに、受験期間を前向きに乗り越える「心の整え方」を聞いた。本記事が、本番を迎える受験生が安心して一歩を踏み出すための一助となれば幸いだ。
●緊張を緩和するには
私たちは人生で多くの場面において緊張する。人は緊張した状態にあるとき、心拍数の上昇、発汗、腹痛などを引き起こしてしまう。なぜ、人間は緊張し、このような反応を起こすのか。緊張のメカニズムについて、「未知のものや見慣れない場面、普段と違う場面にあった時、人間は緊張するようにできています。」と岩佐さんは言う。これは、『闘争か逃走』と言って人間がより野生的な存在であった頃からの反応であると言える。心拍数の上昇は血圧を上げ全身に血液を回し素早く動くため、また発汗は逃走の際に滑らないようにするため、そして、腹痛は逃走や闘争に必要でない消化器系に血液を回さないために起こるものだそうだ。
緊張とは人間にとって生得的な防衛反応であり、解消するのは難しいもののように思われるが、それでも緊張を低減する方法として「なるべく普段と変わらない『日常と同じ』だと感じられるように工夫すること」が大切であると岩佐さんは言う。緊張は未知のものと遭遇したときに起こるものであるため、受験や試合などの一発勝負は緊張をするものだと割り切りつつも、日常の延長であると認識し、普段と変わらない行動を心がけることで緊張を緩和することが期待できる。
●緊張下で自分の力を引き出すには
緊張状態に陥ったときに私たちは何をしたら良いのだろうか。岩佐さんは「準備」が大切だと語る。試験の時であっても、普段通りの朝食や行動をとり、筆記用具など普段使用している道具を用いて『日常』を演出する。会場に早めに着いたら少し歩きまわってトイレの位置や教室の配置を確認することで『場』に慣れる。自分の好きな香りのハンドクリームやアロマを休憩に使うのも効果的であるという。また、自分の得手・不得手を認識し自分が到達するレベルをあらかじめ理解しておくことも重要な準備の一つである。試験では満点を取る必要はない。馴染みのない問題が出てきたら、その問題を避けて自分の得意な問題を解いて、いつもの自分を取り戻し、到達すべきラインを超えさえすればいいのだ。
加えて岩佐さんは、「失敗する練習もしておくといいです。」と言う。自分が今までしたことのない失敗をすると頭は真っ白になり、切り替えられなくなる。そうならないように、あらかじめ本番に似た環境で、失敗に慣れておくことが重要なのだ。
●結果に対する向き合い方
人生の重要な場面で結果が出なかったとき、私たちはどうその結果と向き合うべきなのだろうか。
岩佐さんは「起きてしまったことは変わらないので、まずは受け止める。その上で、『これからできること』に注力する方が効率はいいです。」と言う。つまり大切であるのは、後悔するのではなく分析をすることである。感情的になるのではなく、なぜ自分が失敗したのかを理性的に考察することで、自分の望んだ未来に進むことができるのである。確かに、過去のことを消化するのは厳しいことであり、一種の諦めも必要かもしれないが、その諦めを受け入れることが自分の次へとつながるものとなるのだ。
●受験生が無理なく取り入れられる回復方法
受験生は多くの時間を勉強に費やすことから、精神的にも肉体的にも疲弊する。受験生はどうしたら隙間時間などで回復することができるのだろうか。岩佐さんは『寝ること』の重要性について述べてくれた。脳は長時間使用していると、スマホやパソコンがヒートアップしバグを起こすように、脳にも同じことが起こる。そのため、睡眠をとり、脳を休ませることが大事なのだ。また睡眠には記憶の定着効果もあり、睡眠を恐れず取ることが効率的になることがあるという。正しい昼寝は午後の効率アップにつながるが、寝すぎてしまうと、夜の入眠に影響し、睡眠リズムの不調につながるので注意が必要だ。15時までに30分以内を目安にするとよい。また、実際の試験は午前から午後にあるので、その時間に眠くならないように、昼寝をとる時間を考え、体のリズムを整えることも必要である。
あるいは、お菓子や脳に良い食べ物(青魚・ナッツ・豆類など)を胃の負担にならないように食べることも良いという。脳はエネルギーを大量に消費するので、糖分を必要とする。例えば、チョコレートには糖分のほかにポリフェノールが含まれておりリラックス効果もある。また、よく噛むことで脳の血流を増やすことも出来る。ガムを噛んだり、食べ物の副次的な効果に注目し、適量食べることでさらに回復が見込めるのだ。
●受験生へのメッセージ
岩佐さんは受験生に対し、「自分が何をしたいかを、大事にして欲しいです」と語る。入学そのものが目的化することへの懸念から、「とにかく大学に入ることが目標になってしまって、自分が何をやりたいかを置き去りにしているのは残念だと思います。入ってから『こんなはずじゃなかった』となってしまう。自分が何をやりたいか、それができる環境なのかをゆっくり考える時間を持ってもらうといいと思います」と指摘。
さらに、「大学に入ったらどんなことをしたいか、イメージを持ちながら受験勉強に取り組んでほしいです。受験勉強自体は、やっていて無駄だなと思うこともあるかもしれません。しかし、何をしたいかを中心に考えると、一見無駄に思える受験自体もそんなに辛くなくなり、乗り越えやすくなるのではないかと思います」と、合格の先を見据えることの大切さを語った。
周りの受験生が受けるから、親や友達の勧めといった外圧をそのまま受け止めて受験に向かうのではなく、一度立ち止まり「自分は本来何をしたいのか」「どんな場所で学びたいのか」という思いに立ち返ることが大切だ。自分自身の意思を明確にしたうえで受験に向き合うことで、納得感をもって、自分が本当に進みたい道へ、そして自分の学びたい場所へと進んでいけるはずだ。
(丹波葉)