慶大を代表する演劇サークル、創造工房in front of.による9月爆裂ワンダフル公演『歓声喝采!ネバー・ネバーランド』(脚本・演出は鴇田哲実さん)を鑑賞した。「ネバー・ネバーランド」に住む子供たちが、ある一定の年齢になると大人になるための試練に挑む。数々のアトラクションをクリアし、外の世界―大人の世界―を目指して奮闘するが、そこにさらなる困難が待ち受けていて……というあらすじの物語である。 

印象に残った点は大きく3つほどある。まず1つに、作品世界を表現するために視覚的・聴覚的な工夫が多くなされていた。遊園地のようにカラフルで立体感のある舞台セット、役者の個性あふれる衣装、また彼らの得意技である映像、照明、音響によって、三次元では表現しきれないファンタジーな世界に観客を巻き込むことを可能にしていた。 

2つ目に、役者一人ひとりが登場人物の人生をしっかりと生きていた。登場人物は比較的年齢の低い子供が多いなか、大学生らしさを微塵も感じさせない、元気はつらつで感情豊かな演技を見ることが出来た。大人を演じていた役者も、細かな表情やセリフの言い回しひとつとっても、登場人物の個性が存分にあふれ出ていた。 

最後に、この作品の発するメッセージに多くのことを考えさせられた。物語の終盤、子供たちは「ネバー・ネバーランド」を脱出することができるが、待ち受けていた「大人の世界」は薄汚れており、彼らの夢はがらがらと崩れていった。さらに、今まで彼らを導いてきた大人の「先生」は、子供たちの仲間の1人である少女・パンドラを城の頂上に閉じ込め、亡くした娘と同じように育てるべく、大人の世界の人々を彼女に奉仕させるよう仕向けていたのだった。当のパンドラも「自分の意志でこうなった」と思うことで現状に甘んじていた。しかし子供たちはあきらめず、閉じ込められたパンドラを救い出し、薄汚れた「大人の世界」で精一杯生きてゆくことを誓うのである。 

子供のころ、誰もが「大人」になれば幸せになれると思っていたのではないだろうか。しかしそれは幻想にすぎない。現実は身勝手な何者かの掌の上で転がされているだけだったり、仮にその事実に気づいても現状を打破しようとせずに満足してしまったりする。しかし、厳しい現実を受け入れつつ、それを打破しようという意志を強く持てる者だけが、1回きりの人生をより良いものにできるのである。大学生である私の心に強く刺さるメッセージであった。 
(下村文乃)


創像工房in front of.さんの次回公演は10月公演『絶対領域-くらえ!なけなしのありったけ-』です。詳しい情報はこちら