展示ブースとゲームをプレイしながら、学生の解説を受けることができる。
9月29日、慶應義塾大学の公認学生団体S.A.L.ロヒンギャプロジェクトが大阪関西万博に出展した。出展場所はフューチャーライフヴィレッジ・パビリオン。このパビリオンは、各参加者が未来社会への多様な「問い」や「提案」を持ち寄り、「いのち輝く未来社会のデザイン」を共に考える複合的パビリオンである。
・ロヒンギャ難民—世界最大の人道危機
ロヒンギャとはなにか。彼らはミャンマー西部ラカイン州を中心に生活する少数民族であり、長らくミャンマー政府から迫害を受けてきた。実際、隣国バングラディッシュの難民キャンプにはおよそ100万人の難民が避難し、「世界で最も迫害された」ともいわれるベンガル系の人々である。実は日本にも約400人が避難し、群馬県館林市を中心に生活している。S.A.L.ロヒンギャプロジェクトはそんな彼らの子どもたちに対して学習支援を行う公認学生団体である。学習支援は今年で4年目を迎え、現在では約30人の生徒を抱える。昨年ははじめて受験を経験し、上智大学など各々志望した大学・高校に生徒を送り込んだ。
・ARから自作ゲームまで—奇想天外な展示ブース
万博では館林やオンラインでの支援をはじめ、ロヒンギャ難民危機の概要や在日ロヒンギャの課題についてさまざまな角度から展示を行っていた。しかし、そこには参加者を楽しませるユニークなギミックが仕組まれていた。たとえばAR技術である。展示ポスターにカメラをかざすと写真が動画となって動き出す仕組みだ。これにより参加者は動きと音とともに普段の子どもたちの元気な様子を知ることができる。またクオリティの高い自作ゲームも見どころの一つだ。これは学習支援での生徒とのやりとりをシュミレーションゲームとして追体験できるものである。このゲームを通して参加者は実際に授業することの難しさや、食事の清浄規定などイスラーム教ならではのルールを学ぶことができる。これは特に地元の子どもたちから大好評で、保護者と一緒に選択肢を一生懸命吟味する様子も見られた。
ゲームを進めていくと、最後に全体を締めくくるメッセージが流れる。
「今日の体験が、あなたの中に小さな“きっかけ”を残せたなら、きっとそれが、はじまりです。『誰もが夢を叶えられる社会を』学びは、その第一歩になる」
「学びは、その第一歩になる」は、共生の課題に最前線で取り組む学生たちの正直な想いでもある。
代表 小澤奈央さんに聞く
今回の万博出展について、代表の小澤奈央さん(経3)にお話を聞いた。
・万博について
—万博に出ようと思ったきっかけはなんですか?
正直にいうと、交流のあった別の学生団体から万博関連のキャンペーンへお誘いを受けたのが始まりです。ただ万博出展には何回も審査があるので、ダメもとで受けてみたら通ってしまい、出展の機会を得ることになりました。ただ万博に展示することは、世間に子どもたちを晒すことになってしまうのではないかという心配もありました。しかし、万博出展は今までロヒンギャのことや在日難民のことにそこまで触れてこなかった人に伝えられる良い機会になるだろうと思い、最終的には出展を決意しました。また個人情報保護については、結局ポスターでは子どもたちの顔を隠し、ARでの動画のみ子どもたちの顔を出すことで、個人情報と展示の質を両立することができました。
—展示全体を通して伝えたかったことはなんですか?
まずはロヒンギャ難民を知ってもらうことです。そして、彼らを一括りにせず、自分の目で、一人ひとりの人間として見てほしいと思います。
また、私たちは学生団体として出展しました。学生でもこれだけのことができる。学生でもしっかり社会課題に取り組める。こういったことも伝えていきたかったです。
在日ロヒンギャが抱える問題は、決して彼ら固有の問題ではなく、地方格差であり、経済格差であり、それによる情報格差という、日本が抱える問題でもあります。しかし、こういう問題に取り組むことが日本の利益につながるのに、世間にはなかなか伝わっていません。今回の展示を通して、少しでも当事者意識を持ってくれたら幸いです。
—活動のこれからについて教えてください。
大きな方針としては、これからも国籍問わず日本で頑張っている子どもたちとして支え続けます。「難民だからかわいそう」ではなく、一人の子どもとして。そのためにももっと教育支援の面や地方格差是正に向けて頑張っていきたい。まずは館林から群馬県へ、活動を拡大していきたいと思います。
また直近でいうと、地元のお祭りや三田祭にも出店することにもなっています。三田祭ではロヒンギャのお母さんから教えてもらった焼きそばを販売するのでぜひ覗きに来てください。
「いのち輝く未来社会のデザイン」のテーマとともに開幕した今回の万博。しかし、我々は「未来社会」の展望を少しでも掴みとれただろうか。最後に小澤さんは語る。「未来も難民も、分からないから怖い。しかし今回の万博は全体を通して、分からなさを怖さではなくワクワクに変える場でもあった。私たちの展示もそうであったら嬉しい」
(安藤叡)