慶大には、多くの来場者が訪れる三田祭をはじめ、各キャンパスで毎年学園祭が開催されている。七夕祭、矢上祭、芝共薬祭、四谷祭、そして三田祭。いずれも学生による運営が中心であり、地域との交流の場や学問の発信の場としても重要な役割を果たしている。今回は、5つの学園祭の開催時期や特徴を中心に紹介する。
●七夕祭―「地域の夏祭り」としての側面も
最初に行われるのは7月、湘南藤沢キャンパス(SFC)で行われる七夕祭だ。浴衣を着て足を運んだ学生も多いのではないだろうか。7月5日・6日に実施され、第36回を迎えた。今年のテーマは「栞」。七夕祭に関わる全ての人が、この祭を通して心に残る思い出を記し、その記憶を呼び覚ます栞となるようにという願いが込められている。
七夕祭は、学園祭としての側面だけでなく、藤沢市の人々との結びつきを重視した「地域の夏祭り」としての顔も持つ。約100名の学生で構成される湘南学祭実行委員会によって、企画から運営までがすべて学生の手で行われている。七夕祭では、サークルや研究会による発表や模擬店のほか、実行委員会が運営するさまざまな企画が用意されている。たとえば、キッチンカーと地元レストランとのコラボによる「湘南まちめし企画」、学生や地域の幼稚園・保育園から集めた短冊を飾る「夢短冊企画」など、地域との交流を大切にした取り組みが多いのも特徴だ。そして、1日限定で打ち上げられる花火は、七夕祭を彩る大きな見どころとなっている。
●矢上祭―理工学部の創造を発信
毎年9月に矢上キャンパスで開催されるのが矢上祭だ。今年度は9月20日・21日に開催され、第26回を迎えた。2000年に始まった矢上祭は、理工学部の伝統行事として、学生たちの創造性と技術力を披露する場となっている。企画から運営までを担うのは、矢上祭実行委員会だ。
今年は「M o m e n t u m」がテーマである。物理学における「質量と速度の積」としての運動量、そして「勢い」や「推進力」といった比喩的な意味も込められている。25年の歴史が築いてきた基盤と、それを受け継ぐ委員の覚悟を「質量」とし、今を生きる学生たちの情熱や行動を「速度」として掛け合わせることで、新たな力を生み出し、未来へと進む。そんな思いがテーマに込められている。
企画内容は多岐にわたる。最先端の研究成果を紹介する研究発表をはじめ、室内外で楽しめる体験型イベント、学生団体による模擬店、ダンスなどのステージパフォーマンスなどがある。矢上祭のラストを締めくくる特別な企画として、花火が打ち上げられる。
●芝共薬祭―地域とともに歩む薬学部の学園祭
薬学部の芝共立キャンパスでは、毎年10月に芝共薬祭が開催されている。2008年の薬学部創立とともに始まり、今年は10月11日・12日に実施された。芝共薬祭は、薬学部の情報発信と地域住民との交流を目的とした学園祭だ。2024年度以降は芝学友会と芝共薬祭実行委員会の2団体が協力して企画・運営を行っている。
今年は「P a l l e t t e」というテーマのもとで開催された。絵の具が混ざり合って新しい色を生み出すように、芝共薬祭に関わるすべての人の個性やアイデアを重ね合わせ、唯一無二の学園祭をつくり上げたいという思いが込められている。
企画内容は、受験生向けの相談会やキャンパスツアーなどの受験生企画をはじめ、模擬店、研究室紹介などの常設企画、ステージでのパフォーマンスなどである。また、同日に開催されている「みなと区民まつり」とのコラボレーションも実施され、地域とのつながりを深める貴重な機会となっている。
●四谷祭―医療系3学部が連携する学びの場
毎年10月、信濃町キャンパスでは四谷祭が開催される。医学部・看護医療学部・薬学部の3学部が合同で行う学園祭だ。1978年に初めて開催され、三田祭に次ぐ長い歴史を誇る。四谷祭という名称は、現在の信濃町キャンパスが1995年まで四谷地区と呼ばれていたことに由来した。
今年は10月4日・5日に、コロナ禍を経て6年ぶりの開催となった。運営を担うのは、医療系3学部の学生による四谷祭実行委員会である。
開催された企画は、医療系学部ならではの特色が光るものばかりだった。教授や若手医師と学生が「安楽死」「A I診療」「医療格差」などを議論する教授学生対談、医師・薬剤師・看護師の国家試験を題材にした国試クイズ、さらに医療系3学部の教授を招いた医療系学部懇談会。このように、専門性と学術性、そして学生の熱意が融合したプログラムが開催される。
●三田祭―伝統と規模を誇る国内最大級の学園祭
そして11月下旬に開催されるのが、三田キャンパス全体が熱気に包まれる三田祭だ。三田祭は、慶大の学園祭の中で最も長い歴史を持つ。しかし、「三田祭」という名称が定着するまでには、数々の紆余曲折を経てきた。時代の変化や学生の意識の移り変わりの中で、開催中止や名称変更を経験しながらも復活を遂げ、今では来場者数約20万人、参加団体数359団体を誇る日本最大級の学園祭へと発展した。
第67回を迎える今年の三田祭は、11月21日から24日までの4日間にわたって開催される。模擬店や展示、講演会、ステージパフォーマンスなど、多彩な企画が並ぶ。特に、著名人による講演やゼミ展示、学生によるパフォーマンス企画など、一般来場者も楽しめる内容が充実している。
また、三田祭のプレイベントとして、10月18日に「三田祭 p r s e n t s T o k y o T o w e r Fes2025」が開催された。東京タワーのふもとで行われたこのイベントでは、パフォーマンスステージやキッチンカー、子ども向けの縁日ブースなどが設けられ、三田祭の開幕を盛り上げた。
三田祭は、慶大の年間行事の中でも最も盛り上がるイベントのひとつであり、学生たちの情熱と伝統が息づく舞台となっている。
慶大の学園祭は、いずれも学生が主体となって企画・運営を行い、学問や文化、地域とのつながりを体現している。それぞれのキャンパスで特色あるテーマが掲げられ、個性と熱意が融合することで、学生や来場者に新たな発見と交流の機会をもたらしている。七夕祭から三田祭に至るまで、季節とともに巡るこれらの学園祭は、まさに慶大の多様性と活力を象徴する存在といえるだろう。
(磯貝夏佳)