
撮影:村松桂(株式会社カロワークス)
NHK大河ドラマ「べらぼう」の放送により、関心が高まっている浮世絵。そんな浮世絵を今、慶大内で見ることができるということをご存知だろうか。
三田キャンパス東別館に設置されている慶應義塾ミュージアム・コモンズ(KeMCo)は、慶應義塾が蓄積してきた文化財や学術資料、美術作品などを収蔵しているミュージアムである。現在、KeMCoでは、展覧会「夢みる!歌麿、謎めく?写楽—江戸のセンセーション」が開催されている。そこで今回の展覧会の魅力や見どころについて、KeMCo学芸員の小松百華さんに話を聞いた。
〇貴重な浮世絵を無料で楽しめる
本展覧会は、江戸時代後期を代表する浮世絵師、喜多川歌麿と東洲斎写楽に着目した浮世絵の展示だ。写楽や歌麿の作品を間近でじっくりと観られるのが本展の大きな魅力である。展示作品は前期・後期あわせて約100点に及ぶ。写楽は活動期間が短いこともあり、世界的に見ても作品点数が少なく、これだけの作品が見られるのは貴重なことだという。豪華な展示内容にもかかわらず、なんと本展は無料で誰でも観覧することができる。気軽に足を運べるのも魅力の一つだ。
◯写楽と歌麿 その魅力
歌麿は美人画の名手として知られる。その女性を描く繊細な表現は、在りし日の江戸美人を思わせる。また、本展覧会では、美人画はもちろん、母子像も数多く展示されている。歌麿の活動当時の老中・松平定信の行った寛政の改革により、美人画は規制されてしまう。規制をかいくぐり、女性を描くために制作されたと言われる母子像。美人画のイメージが強い歌麿だが、母子像もまた興味深い。
写楽は、活動期間がわずか10か月と非常に短い絵師だ。それでもなお多くの人に深く印象を残しているのは、写楽の特徴的な表現にある。写楽は役者絵を描いていたが、他の浮世絵師とは一線を画す斬新な表現方法を用いていた。他の浮世絵師が歌舞伎役者を美化して描いていたのに対し、写楽は打って変わって写実的に描いたのだ。その斬新な表現こそが写楽が名を轟かせた所以であり、魅力である。
◯蔦屋重三郎との関わり
蔦屋重三郎は江戸時代中期から後期にかけて活躍した版元である。そして現在、NHKで放送されている大河ドラマ「べらぼう」の主人公だ。浮世絵は、当時商業的な面が大きかった。そのため、蔦屋重三郎は写楽や歌麿をはじめとする絵師に戦略的なアドバイスをする、プロデューサー的な存在だったという。本展では写楽や歌麿の浮世絵と併せて、蔦屋重三郎に関する資料も閲覧できる。
〇高橋誠一郎コレクションとは
本展覧会は、「高橋誠一郎浮世絵コレクション」を紹介する企画展となっている。高橋誠一郎氏は、かつて慶應義塾の塾長(代理)を務めた経済学者だ。幼少期から浮世絵に触れる機会が多かったことから、浮世絵の収集を趣味としていたという。当初は明治期の版画を収集していたが、しだいに江戸時代中期から後期の作品へと遡っていった。そのコレクションは1500点にも上るそうだ。KeMCoの開設以前は、表に出る機会の少なかった作品群だが、開設以降定期的に展示が行われている。
〇浮世絵の鑑賞ポイントは?
浮世絵を鑑賞したことがないという塾生も多いだろう。そんな浮世絵初心者が注目すべきポイントはあるのだろうか。本展では、鑑賞者にありのままで見てほしいという考えのもとに説明を少なくしている。そのため、「こういう風にみてほしい」などの決まり事はなく、自由に鑑賞してほしいという。肩の力を抜いて自分の好きなポイントを探してみるのもよいかもしれない。
浮世絵は、下絵を描く絵師、下絵をもとに木版を彫る彫師、木版に絵の具をつけ紙に摺る摺師など、多様な人が関わって出来上がる。浮世絵に関わる人たちに思いを馳せ、その奥深さを味わうのも楽しみ方の一つだ。
また、KeMCo4階のオフィスでは本展のカタログを販売している。展覧会での鑑賞を通じて詳しく知りたいと思った方は、手に取ってみるのもおすすめだ。
〇慶大生に向けて
本展覧会では前期と後期で展示作品が変わるが、前後期通して歌麿と写楽を主とした浮世絵の展示を行っている。そのため、まだ訪れたことのない人も、すでに訪れたことのある人も楽しめる。そして、何より本展覧会は無料で観覧可能だ。これから夏にかけて暑さが増していく。猛暑を避け、涼しい展示室で浮世絵を鑑賞するのはいかがだろうか。
本展覧会は、慶應義塾ミュージアム・コモンズにて6月3日(火)から7月2日(水)[前期]、7月7日(月)から8月6日(水)[後期]に開催される。
(南水彩)