打った瞬間、頭が真っ白に 時が止まった逆転満塁弾

佐賀北は、広陵のエース野村祐輔投手(現広島)をとらえきれず、七回までわずか1安打に抑えられていた。しかし八回裏、佐賀北にこの試合初めての連打が生まれると、甲子園球場に再びあの「うねり」が巻き起こり始める。

一死満塁で、打順は2番・井出和馬選手。副島さんは、その打席をネクストバッターズサークルから見守っていた。

「俺が決めてやる、だから絶対に決めるなよと心の中で唱えていた」と笑う。

結果は押し出し四球。佐賀北に初得点が入り、なおも満塁という絶好の場面で出番が巡ってきた。

「監督にもチームメイトにも、特に声はかけられませんでしたね。いや、もしかしたら何か言われたのかな。完全に自分の世界に入っていて覚えてないです」

甲子園球場のボルテージは、「歓声」よりも「咆哮」に近かった。緊張はなく、打つイメージだけを思い描いて、打席に立った。

『ここで打ったら、ヒーローになれる』

1ボール1ストライクからの3球目に体が反応し、渾身の力で振り抜いた。打球がどこに飛んだか、自分では分からなかった。

小さい頃、祖父が投げてくれた柔らかいボールを打った時のような、「無感触」の打球。観客のおたけびで、ホームランだと気づいた。

「もう頭が真っ白。『1足す4は5』とか、そんな単純な足し算もできなくなっていた」

『本当に逆転かな』。半信半疑のままダイヤモンドを一周した。ホームベースで生還した3人の仲間と抱き合い、逆転を確信した。甲子園大会決勝戦では史上初の逆転満塁本塁打が決勝点となり、佐賀北は初の全国制覇を成し遂げた。

(次ページ=野球を失い強く後悔 甲子園が支えに