
2025年、日本は第二次世界大戦の終結から80年、そして広島・長崎への原爆投下から80年という節目の年を迎える。80年前には多くの学生が学徒動員され、戦地で命を落とした慶大関係の戦没者は2200人を超えた。被爆者の平均年齢も85歳を超え(2024年3月時点)、その実相を直接語り継ぐ「生き証人」は、日々少なくなっている。「戦後90年」を迎える頃には、戦争や被爆の体験を直接耳にする機会はなくなるだろう。
●高まる核使用のリスク
日本原水爆被害者団体協議会のノーベル平和賞受賞は大いに話題を呼んだ。
ノーベル平和賞の選考委員会は、受賞者に日本被団協を選んだ理由について「ヒバクシャとして知られる広島と長崎の被爆者たちによる草の根の運動で、核兵器のない世界を実現するために努力し、核兵器が二度と使われてはならないと証言を行ってきた」と評価した。現在もウクライナへ軍事侵攻するロシアが核兵器による威嚇をし、核兵器を開発する北朝鮮はミサイルの発射を続けるなど核が使用されるリスクが高まっている。
唯一の戦争被爆国である日本の果たすべき責任は大きいが、2021年に発効された核兵器禁止条約に対し日本政府は慎重な姿勢を示している。2024年9月時点で73カ国が批准している本条約の影響力は大きいが、政府は参加を見送っている。
一方で連立政権である公明党の斎藤鉄夫氏は今年3月「オブザーバーには幅広い参加の仕方がある。橋渡し役として貢献すべきだ」と石破首相にオブザーバー参加を求めた。戦後80年を迎えるなか、アメリカの核の傘の中にいる日本の「核」の現状は今揺らいでいる。日本は安全保障政策の観点から核兵器禁止条約への参加を政府は見送り続けている。しかし、国際社会からは戦争被爆国としてのリーダーシップが求められている。
被爆者の平均年齢も85歳を超え、被爆者が願う核なき世界への実現への思いは未来を担う私たちに託されている。
●市民社会による「核なき世界」への取り組み
核兵器の使用リスクが高まる一方で、核廃絶への糸口を見出せていない国際情勢において、市民社会は、核廃絶に向けて極めて重要な役割を担っている。
特にNGOは政府とは異なる立場を強みに、核兵器の廃絶に向けて取り組みを進めている。とりわけ核兵器禁止条約の締結においては、日本被団協を始めとしたNGOの草の根的な活動なしに成立し得なかったと言える。
NGOは国際会議において、核被害の実相を発信し続けることで、国際社会における核兵器に対する認識を変える役割を果たしてきた。
さらに、NGOは核兵器廃止条約の締結に向けて、各国への働きかけも行なっている。
核兵器に関する国際会議において、各国代表と協議・調整を行い、多くの国から賛同を得たことで、核兵器廃止条約締結の一翼を担った。
こうした国際的な動きの中で、近年注目されているのが、若者世代による積極的な関与である。例えば、日本国内においては学生が中心となり、核廃絶に向けた勉強会・イベントを開催している。また、核廃絶に向けた行動計画を政府に提言するなど実効的な取り組みも進めている。さらに長崎・広島の学生が国連本部にて核廃絶に向けた演説を行うなど世界を相手に核廃絶を訴えかけている。
近年では、行政も若者による核廃絶への取り組みに注目し、支援や連携に力を入れている。例えば、広島県では被爆80年の節目にあわせて、核廃絶への意識を次世代に引き継ぐべく様々な事業を展開している。その一例として海外大学などと協力し、核問題に関して理解を深める合宿を開催している。
●記憶の継承が平和を作る
ノーベル委員会発表の日本被団協ノーベル賞授賞理由より―「いつの日か、私たちのなかで歴史の証人としての被爆者はいなくなるだろう。しかし、記憶を残すという強い文化と継続的な取り組みで、日本の新しい世代が被爆者の経験とメッセージを継承している。彼らは世界中の人々を刺激し、教育している。それによって彼らは、人類の平和な未来の前提条件である核のタブーを維持することに貢献している。」
この言葉にあるように、記憶を継承することこそが、確固たる平和を築くのだ。
本連載では、この理念を踏まえ「戦後・被爆80年」をテーマに、数回にわたって被爆者・学者・核問題に取り組む学生などへの取材を行う。本連載を通じて核を取り巻く過去の記憶を見つめ直し、現在の取り組みや未来への課題を深掘りする。
次回は、核廃絶に向けた取り組みを行う学生たちに焦点を当て、その活動と想いを紹介する。
〈参考文献〉
・https://www.asahi.com/articles/ASSBC4QR8SBCUHBI02NM.html
・https://www.komei.or.jp/komeinews/p405983/
・https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_26531.html
・http://jmapps.ne.jp/fmckeio/#:~:text=「慶應義塾と戦争」アーカイブ・プロジェクト趣意書&text=先の大戦では、慶應,者が出ました%E3%80%82
・https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/peace80/status-treaty.html
・丹羽美貴「核兵器禁止条約と市民社会の役割」(2021年)
・https://www3.nhk.or.jp/news/special/sci_cul/2022/02/story/story_220202/
・https://know-nukes-tokyo.com
・https://www.tokyo-np.co.jp/article/401860
・https://peaceboat.org/21515.html
・https://www.pref.hiroshima.lg.jp/site/peace80/action-summer-camp.html
・https://www.sanyonews.jp/article/1681930