【著者に訊きたい】『希望難民ご一行様』 古市 憲寿

先の見えない現代社会 「あきらめ」の価値とは?

「若者にあきらめさせろ」。この夏、衝撃的なフレーズを帯に掲げて一冊の本が産声をあげた。
 『希望難民ご一行様』(光文社新書)。夢を追うことのリスクが大き過ぎる社会の現状を批判する一方、巷にあふれる「希望を失わずにがんばれ」といった「あきらめさせてくれない」風潮にも異議を唱える異色の書籍だ。
 著者は東大大学院に在籍中で慶大SFC研究所上席所員(訪問)の古市憲寿さん。修士論文が出版社の目に留まり、大幅な加筆・修正を加え今回の出版に至った。
現代社会の学術的な論考というと、一般の読者にはどこか敬遠されがち。「『あきらめさせろ』という、あえて分かりやすく誤解されやすい言葉を使うことで、多くの人に考えてほしかった」と古市さんは語る。
議論の土台となるのは世界一周クルーズを行うNGO「ピースボート」に集まった若者たちの分析。希望と現実の落差に苦しみ「自分探し」に夢中の彼らを古市さんは「希望難民」と名付ける。
希望のない日常から脱出するためにクルーズに参加しながらも、船内で出会った気の合う友人たちと築いた居心地の良い関係に満足し、社会への不満を鎮め下船後の生活に戻っていく希望難民。そんな姿を通じて、古市さんは希望をあきらめさせる「冷却装置」としての共同体の機能を浮き彫りにし、こう述べる。
「あきらめることのできた人は幸せだ。……社会変革のために闘いを続けたり、『やればできる』と自己啓発に励むよりも、仲の良い友だちとバーベキューでも囲んでくだらない話を夜な夜な続ける方がよっぽど幸せじゃないのか。Wiiで『マリオパーティ』をしていたほうがずっと楽しいんじゃないのか」(p.269)
 古市さんはSFC出身。塾生時代は建築から社会学まで幅広く学び、交換留学で滞在した北欧への関心から大学院へ進学した。当初は全く異なるテーマで論文を書こうとしていたという。
そんな折、知人の誘いを受けてピースボートに乗船。船内での膨大なアンケート調査も「何かに使えるかなと思って」実施しただけだったと話す。ピースボートの若者を軸とした論文のアイディアが浮かんだのは、クルーズを終えた後だったそうだ。
異論・批判は覚悟の上。巻末には東大大学院の本田由紀教授が「解説、というか反論」と題した文章を寄稿。あきらめた若者たちによる経済的に脆弱な基盤の上に立つ生活について、古市さんが肯定気味に捉えるのに対し「どれほどの時間的スパンで成立しうるのかについて、私は危惧を覚える」と書き、当事者たちによる社会変革の重要性も説いている。
先の見えないこのご時世、内定や資格試験の合格を目指して駆けずり回るのも良いが、時には本書のような挑発的な主張と対峙し思考を鍛えることも必要ではないだろうか。
(花田亮輔)

1985年生まれ。慶大環境情報学部卒業。現在、東京大学大学院総合文化研究科博士課程。慶大SFC研究所上席研究員(訪問)。SFC時代の友人とともにコンサルタントとしても活動している。自身の今後の「夢や希望」については、「仲のいい人と仕事をしながら趣味としてアカデミックなものに関わりつつ、こんな風に生きていきたい。今は特に大学で働きたいというこだわりはない」。
1985年生まれ。慶大環境情報学部卒業。現在、東京大学大学院総合文化研究科博士課程。慶大SFC研究所上席研究員(訪問)。SFC時代の友人とともにコンサルタントとしても活動している。自身の今後の「夢や希望」については、「仲のいい人と仕事をしながら趣味としてアカデミックなものに関わりつつ、こんな風に生きていきたい。今は特に大学で働きたいというこだわりはない」。