多くのファンによって愛され続け、日本の演劇界を代表してきた劇団四季が70周年を迎えた。その創設者で、今なお受け継がれる数々の作品を手がけた浅利慶太氏の生誕90年も重なる今年。36年にわたって再演されつづけている『夢から醒めた夢』に参加する新たな顔に話を聞いた。

 

――お稽古お疲れ様でした。

ありがとうございます!

 

――今回、長年ファンから愛され続ける『夢から醒めた夢』に初めて参加されるということですが、どんなお気持ちですか?

まずオーディションの合格通知をいただいた時は、夢なんじゃないかと思うくらい驚きましたし今もまだ夢かと思うくらい光栄に思っています。それほど素晴らしい作品に出演させていただけることに感謝していますね。

この作品は本当に素晴らしくて、稽古中でも泣きそうになってしまうくらいメッセージ性の強い感動的な作品なんです。自分がその作品に一員として参加できるという責任も噛みしめつつ、千秋楽まで自分の役割をきちんと果たしたいと思っています。

 

――毎日お稽古を重ねていらっしゃるということですが。

はい。『夢から醒めた夢』という作品や初演からの歴史を感じながら稽古を日々重ねています。稽古では、浅利先生が作られた劇団四季ならではの発声方法やお客さんへの伝え方などたくさんのことを学ばせていただいています。

稽古場での西山さん(左から2人目)

――西山さんご自身は岡山県の大学に在学中とのことですが、学業との両立は大変ではないですか?

そうですね。以前から地元の演劇には出演していましたが、高校で情報系の学問にも興味を持って。そこで、いろいろと考えた結果、大学は岡山大学の工学部に入学しました。でもこの作品への参加が決まり、どうしてもお稽古に集中できる環境に飛び込みたくて大学を休学して上京することに決めました。最初は不安もたくさんありましたが、先輩方や同じく浅利演出事務所の作品に初参加の3人のアンサンブルの仲間(佐藤志有さん・鈴木直幸さん・安井聡さん)がとても優しくて。こんなにお世話になりすぎていいのかなと心配になってしまうほどです(笑)。

アンサンブルの迫力あるダンスも見どころの一つ(左から2人目が西山さん)

――素敵な環境なんですね。西山さんは今回「男性アンサンブル」という立ち回りですが、台詞が少ない中で「伝える」というのは難しくないですか?

確かに台詞を言う機会は少ないかもしれません。ですが、発する言葉が少ないからこそ「一つ一つの歌詞」を大切にしています。お稽古の最初の1ヶ月くらいは、曲の歌詞を台詞として発声して意味の理解を深めていくという過程に充てられていました。例えば、「遊園地のパレード」の「願い事があるのなら胸に抱き続けよう」という歌詞を、メロディーに乗せずに台詞として声に出す。そうすることで歌詞の意味を腑に落として、伝えたいことをお客さんに伝えられるだけの熱量で自分自身に当てはめていきました。そしてそれを踊りに反映して表現しています。

 

――そうなんですね。中でも特に熱を込めたシーンはありますか?

「あなたのために」という曲ですね。僕は影コーラスで参加させていただいているのですが、子供達をはじめ既に亡くなってしまっている人々と今も生き続けるピコとの、言葉と愛のキャッチボールには、「誰かのために」という想いが詰まっています。だからこそ、この曲の歌詞にはより重みがありますし、お客さんに届けたいと強く思いますね。

――『夢から醒めた夢』は愛や友情、命がテーマとなっていますよね。誰もが知っているその大切さをあえて再度伝えることにはどんな意味があると思いますか?

人は意外とその大切さに気づいていなかったりすると思うんです。人生を歩んでいく中で、新しいことを吸収して過去のことは忘れるということが生きていくコツだと言われたりもします。でもだからこそ、根本的な大切なものに目が向かずに過ごしている人も多いのではないでしょうか。『夢から醒めた夢』は愛や友情のような、大切だと分かってはいたけどやっぱり改めて大切な、人間の芯みたいなものに気づかせることができると思っています。

 

――今年は浅利先生生誕90年、劇団四季70周年の節目の年ですが、そこに懸ける思いはありますか?

僕自身は浅利先生にお会いしたり直接指導していただいたりすることは残念ながら叶いませんでしたが、浅利先生の指導を受けた方々からその教えをご教授いただいています。お稽古を通して、浅利先生の意志をたくさんの人が受け継いでいることの尊さを実感していますね。だからこそ、頂いた一つ一つのご指導やアドバイスを大切にしたり、浅利先生の言葉を自分の中で昇華させてパフォーマンスに活かせるように努力したりしています。

――私もお稽古を見学させていただきましたが、皆さんの一体感に圧倒されました。最後に今後の展望をお聞かせください。

はい。僕は舞台の世界で生きていきたいと思っています。幼い頃からの憧れである俳優として、舞台で生きることにまっすぐ進んでいきたいです!

 

――本日はありがとうございました。応援しています!

ありがとうございました!

 

幼い頃から憧れた世界に一人で飛び込み、夢を掴もうとしている同世代がいる。

夢見ることは時に苦しみを伴うかもしれない。それでも、将来の選択が迫られる今、再度醒めない夢も見てみるのも素敵かもしれない。

 

太田小遥

【プロフィール】

西山 侑希(にしやま・ゆうき)さん

2003年9月6日生まれ。岡山県出身。岡山大学工学部在学中。

これまでの出演は、2018年RSK主催「オランダおイネあじさい物語」、2021年「ミュージカル 夢の降る街」、2022年倉敷市民ミュージカル「サキガケ」ダンサーなど。