宝塚トップ娘役から慶大大学院生へ 美園さくらさん インタビュー

今春、元・宝塚歌劇団トップ娘役という異色の経歴を持った学生が慶應大学大学院に入学したのはご存知だろうか。

99期生として首席入団し、昨年の8月まで宝塚歌劇団の月組で活躍した美園さくらさん。現在は大学院にて、メンタルヘルスについて研究中だ。

 

今回はそんな美園さんに宝塚音楽学校(以下、音楽学校)入学前から現在に至るまでの話を聞いた。

 

――中学時代は実用数学技能検定で文部科学大臣賞を受賞するほど勉学に励まれていたかと思います。音楽学校および宝塚歌劇団に進んだきっかけを教えてください

叔母の勧めで、幼少期から宝塚の公演をコンスタントに観る機会はありましたが、それが直接的な理由ではありませんでした。

高校時代、進路を悩んでいたときに宝塚の『エリザベート』という作品に出会って。その世界観に圧倒されたこと、また1つの目標に向かって突き進むという道に魅力を感じたことがきっかけで音楽学校に進学することを決めました。

 

――在団中も通信制の大学に通っていたそうですが、多忙な中で学びを続けた理由は何ですか

当時、「宝塚を退団したら、ちゃんと大学を卒業したいな」という明確な目標があったからです。やはり在団中は忙しいですし、スクーリング(通信大学の学生が夏休みなどに一定期間通学して教室等で直接授業を受けるもの)も行けないので、容易ではなかったですね。単位もそう簡単には取得できないので、在団中からコツコツと勉強を続けていたという感じです。

また、芸能の世界とは異なる「勉強している時間」が心の支えになっていたこともありました。

 

――退団後、慶應大学大学院に進学したきっかけを教えてください。

もともと大学院に通うつもりはなかったのですが、在団中にいろいろな人に助けていただいたので、自分も誰かの支えになりたいという気持ちはあって。そんな中、退団後すぐに大学の勉強で図書館を訪れたときにボランティアの本を見つけて、経験してみたいなと思ったんです。

そこで、子ども食堂や子ども向けのゼミにアシスタントとして参加したのですが、現代の子どもたちはSNSのようなツールが発達しすぎていて無邪気さが足りないんじゃないかと感じました。思いっきり泣いたり笑ったりといった経験をする場がもっとあるべきだなって。

その経験と以前からの想いがリンクして、自分でそういう場所を作ろうと思ったんです。そのためには最初から学び直すことや、いろいろな人たちとの出会いが必要だと考えて、大学院に進学することを決めましたね。

 

学生をイメージしたファッションで取材に応じてくれた美園さん

 

――宝塚在団中の経験で、現在の研究につながっていると感じることはありますか

やはりトップ娘役になるまではもちろん、なってからも大変なことがたくさんあって。その経験が現在研究している「メンタルヘルス」というテーマにもつながっていますね。

在団中に手を差し伸べてくれる人もいたんですよ。でも、私はなかなか周囲に弱音を吐けなかった。それは私だけではなくて、音楽学校を途中で辞めていく同期や早くに退団してしまう後輩たちの姿を度々目にしました。せっかく才能があって、努力も続けてきたのに、そんなのもったいないじゃないですか。それが本当に悔しくて。そういった宝塚在団中の経験で得た、心の豊かさや人の痛みが分かる力は自分自身の成長の糧にもなりましたし、現在の研究にもつながっていると思います。

 

――現在、メンタルヘルスについて研究されているそうですが、今後の目標をお聞かせください

簡単に言うと、悩んでいる人が相談できるだけではなく、それぞれが目標に向かって挑戦できるようになるための「自信を持てる場所づくりをしたい」と思って、メンタルヘルスについて研究しています。

悩んでいる人の中には私と同じように、「カウンセリング」って改めて聞くと、かえって相談しづらいなと思ってしまう人もいると感じていて……そんな人たちも相談しやすいプラットホームのような場所を提供したいです。

 

――美園さんの大学院生活の様子を教えてください

仲間や環境に恵まれ、とても充実しています!私の在籍している研究科は外国籍の学生が多いこともあって、年齢もバックグラウンドも多様で。いつも良い刺激をもらっています。

また、メンタルヘルスだけではなく、プログラミングも学んでいるんです。そういう分野は、宝塚時代に触れる機会が少なかったので、友人に助けてもらうことも多いですね(笑)。

 

――今後、芸能の道に戻ることは考えていますか

今のところは考えていないですね。今は自分の中でやりきったなっていう気持ちが強いことと、期限があるからこそ美しいみたいな考えがあって(笑)。

でも、この先また芸能の世界に戻りたいって思う可能性はなくないので、はっきりとは分からないですけど、とりあえずは大学院生活を楽しみたいと思います。

 

――ご自身が大事にしていることで、若い人たちに伝えたいことはありますか

結果を先に考えるのではなく、学問や対人関係など目標とするものにとりあえず挑戦してみてほしいですね。「当たって砕けろ」の精神で、まずは飛び込んでみないと。とにかく今この瞬間を大事にしてほしいです、その後のことは後からでも十分考えられますから。

 

―最後に、慶應大学の受験を考えている方々と慶應大生にメッセージをお願いします

まず、受験生の皆さん、こんなに素敵な学び舎は他にないと思います。慶應は、卒業後にも絶対に糧になるものが得られる場所です。勉強を心から楽しんで頑張ってください。慶應で待っています。

そして、慶應生の皆さん。慶應のキャンパスはとても素敵で、先生方も学友の皆さんも魅力的で、学ぶところがたくさんあると思います。慶大生としての誇りを持ち、慶應という学び舎で過ごせる今の時間を大切に、楽しんで過ごしてください。

【プロフィール】

美園さくら(みその・さくら)さん

2013年、宝塚歌劇団に99期生として主席入団。翌年、組回りを経て月組配属。

早くから高い歌唱力で注目を集め、2015年「1789」で新人公演初ヒロイン。その後も2018年「エリザベート」新人公演ヒロイン、2018年「雨に唄えば」ヒロインなどを務めた。

2018年に珠城りょうの相手役として月組トップ娘役に就任。翌年の「夢現無双/クルンテープ」で新トップコンビ大劇場お披露目。2021年「桜嵐記/Dream Chaser」東京宝塚劇場公演千秋楽をもって、宝塚歌劇団を退団し、2022年春に慶大大学院へ進学した。

 

(飯尾梨子、久米里佳)

 

〈取材協力〉カフェ八角塔