【ART COLUMN】映画『アメリカン・グラフィティ』(1973)

夏の夜、高校生最後の日。メルズ・ドライブインに集う車のラジオからロック・アラウンド・ザ・クロックが鳴り響く……。

『アメリカン・グラフィティ』は1973年公開のアメリカ映画である。監督はG・ルーカス。彼の初期の作品だ。

物語は1962年、アメリカの田舎町で展開する。どこにでもいる若者たちの、高校生としての最後の一夜を描く。

主人公の一人であるカートは、町を出て大学に行く予定だったが、出発前日になって迷いが生じていた。町を出るとは過去を置いていくこと。焦って大学に行くのは正解なのか?

彼はお決まりの溜まり場に向かい、いつものように仲間と会う。大学進学に意欲的な友人スティーブの”You can’t stay seventeen forever(いつまでも17歳じゃいられないぜ)”という言葉に対し、彼は”I just want some time to think. What’s the rush?(考える時間が欲しいだけさ。焦る必要はないだろ?)”と応える。

人生に迷いはつきものだ、なんて偉そうに書くつもりは毛頭ないが、選んだ扉は正しかったかと不安になることはあるだろう。人生は選択の連続である。進学に限らず、サークルやゼミ、就職やら結婚やら、例を挙げればキリがない。それも、選択には無慈悲なタイムリミットがある。迷子にも卒業の日は訪れるし、「ひとまず」どこかに就職しなければならない、というのが社会の風潮だ。

大学に行くにせよ町に留まるにせよ、夜明けまでに心を決めなければならない。そんなカートがとった行動は、これまでと全く同じ、仲間とだべり、町をぶらつくことだった。恩師に再会したり不良に拉致されたりと、なかなか濃い時間を過ごす。

そんな折、彼は車越しに絶世の美女を発見し、取り憑かれたように彼女を追いかけることになる。”Cut over to G Street, I’ve just seen a vision!(G通りへやってくれ。まるで夢みたいだ!)”。彼の無我夢中の奮闘は見ていておかしいが、この女性が「迷い」と重なるようで、切ない色がちらりと覗く。

「グラフィティ」は英語で「落書き」を意味する。作品に描かれるのは特殊な事件や派手な活劇ではなく、コメディがかった雑多な日常だ。「大人」から見れば無意味で下らない喧噪かもしれない。たとえそうだとしても、若者にとって「今」は大きいのだ。

遠くの未来を見たくなると同時に、今いる場所を離れたくない。歩んだ道は特別で、大切なものだから。青春は無価値で尊いと感じる作品である。

伝説のDJ・ウルフマンのトークと当時のヒット曲が全編に散りばめられている。「あの頃」を知らないはずなのに、我々も不思議な懐かしさを感じるのは何故だろうか。
(玉谷大知)

『アメリカン・グラフィティ』 Blu-ray:1,886円+税 発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント
『アメリカン・グラフィティ』
Blu-ray:1,886円+税
発売元:NBCユニバーサル・エンターテイメント