慶大文学部では、2年次から専攻毎に分かれてより自分の興味のある分野について深く学ぶことができるようになる。そんな専攻決めに先立ち、今回、美学美術史学専攻について、日本の古代・中世仏教彫刻史がご専門の佐々木康之教授にお話を伺った。
―美学美術史学専攻でしかできないこと、特色は何ですか?
美学美術史学専攻は、論理的に「美しい」とは何かを説明していく「美学」、歴史的に美術作品を紐解く「美術史」、総合大学で設置されていることが珍しい「音楽史」、2000年代に入ってから新設された「アートマネジメント」の大きく分けて4分野を学ぶことができる専攻です。一つの専攻でありながら、非常に広い分野をカバーしており、学問への入り口が広いことが特色の一つです。
―必修の授業内容について教えてください
必修授業には演習(ゼミナール形式)と講義(美術概説、音楽史等)の両方があります。また、各分野[s1] の専門的な内容を学ぶ美学史特殊・音楽史特殊・美術史特殊などの授業、外国語文献を読む「原典購読」の授業もあります。また、これらが必修、あるいは選択必修の授業です。また、これらに加えて、研究基礎という科目は、芸術研究を行う上で必要なマナー・基本的な考えを学ぶもので、全体で100名いる専攻の学生全員が履修することを推奨しています。ある意味、そこでみんな顔合わせをするイメージです。
―美学美術史学専攻が求めている人間像とは?
美術作品などを観るのが好きだという人は誰でも向いていると思いますね。作品はこれまであまりみたことがないという人でも、歴史が好きだったり、古いものが好きだったり、そういったところに興味がある人は向いていると思います。全く興味がないような人、見るのが好きでないという人は向いていないです。あとは、室内にいて済む分野ではないので、調査等で外に出る必要があります。フィールドワークなども行うのでアクティブな人は割と向いているのではないかと思いますね。
―実際に入った学生がここに苦労している、大変そうに見えるなということはありますか?
やはり語学は大変ですよね。ただ、これは文学部全員決まっているので、語学が厳しいのは。そこは他専攻と変わらないのですが、(美学美術史学専攻では)やはり作品をみることが実はすごく難しいんです。ただ見てきれいだとか、主観的にこう感じるということ自体は誰しもできると思います。それも、入口としては非常に大事ではあります。ただ、研究として一段次の段階に行くには、やはり作品の見方というのがあります。トレーニングが必要で、ある程度知識も必要です。日本の高校生までの科目で触れることは少ないです。大学に来て初めて行うので難しいです。わかってくると次の段階に出て、楽しくなってくる。それでもそこを乗り越えるまでって結構大変なのですよね。
―佐々木先生の専門分野、古代・中世の仏教彫刻についてはいつ頃から興味を持ったのですか?
もともと、高校で日本史を選択するなど、日本の古いものが好きでした。大学に入る段階で、日本史のほかに美術史という分野があることを知り、歴史と物を同時に学べるということに魅力を感じ、美学美術史学専攻を選びました。

―美学美術史学専攻で学ぶことで得られる楽しさは何ですか?
様々あり、また学ぶ分野によっても異なりますが、例えば美術史でいうと、実物を扱うことです。芸術作品を研究対象としていくので、形があるわけです。歴史の方は文字資料を対象にしながら考える。美術史は、重み・質感のある「もの」は存在する。文字だけではわからない情報が、質感や重みやかたちから引き出せるということは意外と多い。言葉でないからこそ言葉を扱う分野だけではわからないことっていうのもやはりあるので、そこがおもしろみです。美術館に行って感動するようなことはとても大事です。美術作品の多くは美しいものと意図されて制作されました。昔の人が心を震わせた作品をみて、感動することは研究の入り口です。そうやって、過去の人と心を通わせることができるというのは、人文学として大切です。

―慶應の卒業生として、受験生・塾生に対して伝えたいこと
学生は学生なりに忙しいとは思います。自分も特別何かをやったというわけではないですが、早ければ18歳で大学生になって、その年ってすごく多感な時期だと思います。もちろん、年をとっても、エネルギッシュでいることはできますが、この時期は、エネルギーだけでなく、時間もある。すごくいろいろなことを吸収できる。チャレンジもできる。あとからいろいろやろうと思うと、記憶力も衰える、時間も無くなります。この時期に吸収したものは忘れにくいです。今思えばいろいろとやっておけばよかったというのはあります。色々なところで言われていることかもしれませんが、一生懸命になれるものに集中してやってみる。一番効率的にできる時期です。特別何かやらなくとも、とにかくその時も考えて悩んだりしてほしいですよね。あとは、美術の分野からいうと、美術に限らないことではあるのですが、考えることも大事だが感じるということを大事にしてほしいんです。美術館に行ってみて、作品を観るということは出会いの場でもありますので、興味のあるなしにかかわらず、色々な博物館、美術館に行ってみる。自分の感性を伸ばす、あるいは自分の嗜好性がどこにあるのか探しに行って、「感じる」ということを大事にしてほしいと思いますね。
(田中智子)