慶大は、2025年度の省エネルギー目標を「各キャンパス単位でエネルギー消費原単位を2024年度比で2%以上低減する」と定め、2024年度比のエネルギー使用状況をキャンパスごとに算出して毎月ホームページに投稿している。このような取り組みをしている大学は全国的に見ても珍しい。今回は慶大の施設、設備を管理し、これらのデータを公表している管財部施設担当の方々に慶大のエネルギー使用の現状、今後の対策について話を聞いた。
―大学独自の省エネルギー目標設定の経緯は
経済産業省が定める法律によって、事業者はエネルギー消費原単位を年平均1%以上改善する努力目標が課されています。それに従い、これまで我々も省エネルギー施策に取り組んできましたが、近年のカーボンニュートラルを推し進める風潮もあり、慶大の施設が持つ省エネルギーのポテンシャルを再考することになりました。2030年までの段階で慶大がどれくらいエネルギー使用を削減できるか試算し、試算量に到達するために年間でどの程度消費量を削減すべきか逆算した結果、「年間2%削減」という大学独自の数字が割り出されました。年間2%の省エネ改善によって、2030年に算出した慶大の省エネルギーの最大限のポテンシャルの発揮に到達するということです。
―現在行っている具体的な省エネルギー施策は
塾生が触れることの多い施策としては空調の設定温度の制限が挙げられます。以前は一律的に設定温度の上限、下限を決めていたことで学生から色々な意見が出ましたが、最近では場所によって条件を緩和するといった対策を取っています。新型コロナウイルスが本格的に流行していた時期に、教室ごとにCO2の濃度を測定する必要があり、各教室に温湿度計付きのCO2のセンサーが搭載されました。そのおかげで各教室の相対的な温湿度や人口密度の傾向が遠隔で監視できるようになり、各教室に合わせた対応がしやすくなったのです。まだ学生が納得できる形かはわかりませんが、そこに関しては努力を続けています。また、より根本的なエネルギー使用効率の改善のための施策として一番大きいのは、照明のLED化です。これから蛍光灯の段階的な生産中止が始まってくるので、施設内に沢山設置されている蛍光灯をLED照明に取り換える必要があります。当初は2025年度中の慶大の施設内の取り換え完了を目標にしていましたが、実際2027年度くらいまでかかりそうです。しかし、現状かなりの数の蛍光灯の取り換えが進んでいるので、それが省エネルギー施策として一定の効果を出していると考えています。これが一巡したら、大規模な空調システムの更新を予定しています。これらの施策は実行の目的がはっきりしているため、予算化もしやすいのです。
―目標と現状の距離感は
全体的に見ても、おおむね目標達成の見込みです。ただ「前年度比」というのがポイントで、例えば前年度に大幅なエネルギー削減が達成されてしまうと、今年度の努力が推移として明確に表れない、ということもあります。外気温にもかなり左右されるので、ただデータだけを見て施策の効果を測ることは難しいです。さらに、キャンパスごとに算出される数値にも開きはあります。例えば芝共立キャンパスは、キャンパスの規模が他のキャンパスに比べて小さめなので、空調の換気量の調整といった細かな施策だけでもかなり効果として数字に表れやすいです。一方信濃町キャンパスには病院があるため、空調の調節はなかなか難しいのが現状です。全体的に見ると、文系学部のキャンパスはもともとのエネルギー使用量が少ないためこれからの減少を狙うのは難しく、理系のキャンパスでは今後の実験器具の取り換えでエネルギーの使用効率が改善される余地がある、という違いがあります。
―長期休暇中と平常時のエネルギー使用量に違いは
実は長期休暇中というだけではエネルギー使用にそこまで平常時と差は出ません。特に三田キャンパスは都内にあるので、会合等で使用されることも多いですし、何より休暇中であっても教室に来れば学生は空調を使えてしまいます。大教室において1人、2人でも空調を使用してしまえば、結局大人数が大教室で講義を受けているのと同じくらいのエネルギーを使用してしまうことになるのです。
―空調利用を制限できないのか
一時期、空き教室の空調利用を制限していたことはありました。しかし、三田にしろ日吉にしろ、学生が空き時間を過ごせる場所が少なく、その場所で空調が使えないということになると、体調の面で懸念が出てきます。このような面からの学生部からの意見もあって、現状制限をかけることはなかなか難しいです。
―学生ができる省エネルギーへの取り組みは
空き教室を使うにあたって、もちろん人の少ないところで自習したいという気持ちは理解できますが、さすがに大教室をたった数人がすべての照明、空調を使うことになると非効率的なので、なるべく同じ場所にいてもらえるとありがたいです。単純な話ですが、ただ教室から出るときに必ず照明や空調を消す、というだけでも対策になりうると思います。
管財部考案の新システム あなたが「諭吉くん」を笑顔に?
現在、毎月ホームページにエネルギー使用状況を投稿している管財部だが、新たに三田キャンパスのエネルギー使用状況を「見える化」したシステムを開発した。(添付のQRコードからアクセス可能、12月中には慶大のホームページからも閲覧できるようになる)このシステムによって、昨年度に比べた今年度のエネルギー使用量、建物別のエネルギー使用量、そしてアクセスした当日のエネルギー使用状況をグラフや図で確認できるようになる。当日の実績は15分単位でシステム上に反映されるという。そしてこのシステム最大の魅力は、その実績によって変化する「諭吉くん」の表情だ。サイトにアクセスしてスクロールすると、福沢諭吉のイラストが現れる。このイラストの表情は、なんとその日その時間のエネルギー使用状況によって変化するのだ。エネルギー使用量が少なめであったら笑顔、多めであったら泣き顔、といった段階的な変化をする。例えば今見た諭吉くんのイラストが悲しげな表情であっても、我々が階段を使ったり大教室の少人数での利用を避けたりといった省エネルギー対策に取り組めば、15分後には諭吉くんの表情は笑顔になっているかもしれない。我々の手で諭吉くんを笑顔にできるということである。今後このシステムは他のキャンパスにも拡大予定だ。

ひとえに「省エネルギー」や「地球温暖化対策」と聞いても、話が大きすぎて塾生の中には他人事に思える者もいるだろう。実際、地球規模の問題に対して我々ひとりひとりの影響力は小さく、努力を続けても結果としては見えにくい。空調管理に関してもそういった価値観が原因で複雑な思いをする塾生もいるかもしれない。しかし、慶大の創設者である福沢諭吉を笑顔にする、という単純明快な目的があれば、省エネルギー対策を小さなことからでも実行する原動力になりうるのではないか。あるいは、塾生のために視認性に富んだシステムを考えてくれた管財部の方々のために、という気持ちもモチベーションになりうる。原動力が地球のためにという目的意識でも、特定の誰かのためにという目的意識でも、同じように日々対策に取り組むことで目に見える効果を生み出すことができるかもしれないのだ。今こそ塾生一丸となって、省エネルギー対策に取り組むべきだ。
慶大ホームページ内の「見える化システム」含む環境への取り組みが閲覧できるページ
https://www.keio.ac.jp/ja/about/learn-more/society/environment.html
(横山葵)