ある日電車に乗っていると、向かいに高校生が座っていた。単語帳を熱心に読み、少しでも頭に入れようとしている。そんな姿を見ているうち、受験生だった頃を思い出した。毎日不安に駆られ、必死になって単語を覚えていた▼ヘルマン・ヘッセの小説『車輪の下』の主人公ハンスも同じように、暇があったら勉強していた。唯一の息抜きである聖書の時間でさえ、ギリシャ語の単語を覚える時間に充てている▼勉強の甲斐あり、ハンスは神学校に合格する。その喜びを彼はこう表した。「なにもかもがいつも通りだが、すべてが今までより美しく意味深げに喜ばしげに見えた。(中略)いよいよ学問することができるのだ」▼合格の安堵と将来への希望。2年前の合格発表日、私も同じような気持ちだったように思う。いよいよ大学で学べるのだ、と考えていた▼大学は基本的に「学問」する機関だ。高校までの「勉強」と違い、大学での「学問」には答えがない。大学生は大学で、自分が受験の時に選んだ学問(テーマ)に対する姿勢を決めなければならない▼この姿勢は、大学でのさまざまな経験から醸成される。座学はもちろん課外活動や交友関係など、すべての経験が肥やしとなる▼だからこそ、受験の時に「なぜ大学に行くのか、自分は大学で何をしたいのか」を真剣に考えてほしい。大学で多くを学び、視野を広げるには、自分の中にブレない軸が必要だ▼入試の季節。不安かもしれないが、自分の理想を胸に抱き、試験に取り組んでほしい。2カ月後、自分なりの素晴らしいスタートを迎えられることを祈る。(大竹純平)