慶大医学部生理学教室・岡野栄之教授らの研究チームが、脊髄損傷で手足が麻痺したサルを人口多能性幹細胞(iPS細胞)による治療で歩けるようになるまで回復させることに成功。12月7日に神戸市で開かれた日本分子生物学会で発表した。
岡野教授らは、2006年には、iPS細胞を用いたマウスの治療に着手していた。今回治療を行ったのは、サルの一種である小型霊長類のマーモセット。霊長類での成功は世界初である。
研究チームは、人間の皮膚細胞に4種類の遺伝子を導入して作成されたiPS細胞から、神経細胞の前段階の細胞(神経前駆細胞)を誘導し、これを脊髄の受傷から9日後のマーモセットに移植した。移植前は手足が麻痺して動かせない状態だったマーモットは、移植後には歩いたり飛び跳ねたりすることができるほどまで運動能力が回復した。
自身以外の細胞から作ったiPS細胞由来の細胞を移植した場合、移植後に腫瘍化する恐れがあるが、今回の研究では腫瘍化しにくいiPS細胞を用いたこともあり、移植後3カ月も細胞が腫瘍化することはなかった。
今回ヒトにより近い霊長類の治療に成功したことで、ヒトに対してもiPS細胞を用いた治療ができる可能性が高まった。岡野教授は「今後はヒトの治療に応用することを目指して、より安全なiPS細胞由来の神経前駆細胞の作製、臨床応用に向けて前進したい」と語った。
今回の研究は、慶應義塾大学医学部整形外科学教室の小林喜臣氏・中村雅也講師、実験動物中央研究所(川崎市)との共同で行われた。