読書の秋。今年はどんな本を読もうか。オンライン書店や電子書籍などの登場で、簡単に本が手に入る。私たちは、無限にある選択肢の中から一冊の本を選び、それを読む。しかし、手にする本のジャンルは、しばしば似てくるのではないだろうか。

「ミステリーは、情報の小説だ。分からないことが分かっていくというところに快感を覚える」。書評家の杉江松恋(すぎえ・まつこい)さんは、ミステリーの魅力をこう語った。

ミステリーというジャンルは、読み慣れていない人にとってハードルが高いと思われがちである。なかなか見えない全体像や進まない展開に飽きてしまうことがある。緊張感に耐え切れずに、結論を先読みしてしまうことも。だからこそ、読み方や選び方は非常に大事だ。

ミステリーをどう読むべきか。「一番大事なことは作者を信頼して読むこと」。見晴台にたどり着くまでに、時間がかかるのがミステリーだ。見晴台までの道のりは五里霧中である。作者を信じてこの霧を抜けたとき、あっと驚くような瞬間が現れる。杉江さんは、「五里霧中をいかに楽しめるか」を、重要なポイントとして挙げた。

「作者を信頼して読む」なかで、もう一つ重要なことがある。作者は、読者を驚かせるために、計算をして小説を書いており、章立てにもそれが表れている。読者にどう情報を与えていくかを計算して小説を書いているため、章立てにも意図が秘められている。読む際は、作者が意図をもって区切った章ごとに整理しながら読んでいくと、いっそう面白く読めるのだ。

読み方と合わせて押さえておきたいのは、選び方だ。せっかくミステリーを読むなら、自分に合った面白いミステリーを読みたい。杉江さんに選び方を尋ねたところ、シンプルな答えが返ってきた。「手に取った本のあらすじ紹介を半分まで読んでつまらないと思ったら、読むのはやめたほうがよい。逆にピンときたら読んでみるとよい」

ミステリーは、冒頭部分の五里霧中と中盤の論理性、終盤の驚きで構成されている。つまり、冒頭の状況は謎めいていることが多い。「冒頭部分を面白いと思えたら、そのミステリーはおそらく自分に合ったミステリーだ」と杉江さんは話す。あらすじ紹介の残り半分に書かれている驚きは、最後まで読まないと味わえない。しかし、よく分からない状況を読み進めていくには根気がいる。だからこそ、冒頭部分の感触はミステリーを選ぶうえで重要なのだ。

杉江さんは、学生時代にミステリーのとりことなり、今は書評家として「読む」ことを職業に、年間数えきれない程のミステリーを読んでいる。ミステリーには、引き込まれたら離れられなくなるような魅力があるのかもしれない。この秋、そんな世界に足を踏み入れてみると、まだ見ぬ「面白い」に出会えるかもしれない。

(鈴木里実)