私は小学4年生の時から剣道を習い始め、38年修行を続けている。

そして現在、本塾の体育研究所・准教授として、体育実技の「剣道」や「スポーツとからだの基礎理論」・「スポーツの効用を科学的にみる」という体育学講義で塾生と接している。

また、教養研究センターの極東証券寄附講座「生命の教養学」のコーディネーターを務め、塾生とともに「いのち」について考えてきた。

課外活動では、体育会剣道部の高校生・大学生と共に、稽古に汗を流している。

今回、「塾生が学生時代に読むべき本」を紹介することになり、『司馬遼太郎の「武士道」』(石原靖久著)を選んだ。35年間編集者として活躍した著者が、若い頃から親しんだ「司馬遼太郎」の本。その中から「武士道」について考えながら、親から子へ伝えていくべき日本人の「心」の問題をまとめている。

「竜馬がゆく」―おちこぼれ少年と青春革命、「燃えよ剣」―なぜ、この男は女性の心をつかむのか、「世に棲む日々」―名こそ惜しけれの精神医学、「峠」―時流に負けず、流行に流されず、「菜の花の沖」―船頭嘉兵衛の倫理観、「翔ぶが如く」―この国のかたちをどうするか、「歳月」―国家設計をめぐる悪魔的な戦い、「坂の上の雲」―近代日本人はこうして登場した、このような章立てとなっている。主人公は「坂本竜馬」「土方歳三」「吉田松陰と高杉晋作」「河井継之助」「高田屋嘉兵衛」「西郷隆盛」「江藤新平と大久保利通」「正岡子規と秋山真之・好古兄弟」という幕末から明治維新に活躍した人々だ。

司馬遼太郎は明治建国の父として、「勝海舟」「福澤諭吉」「小栗上野介」の3人を挙げている。中でも福澤先生については、「明治の国家には文明という普遍性がなければならないことを教えた人」と評している。

この莫大なエネルギーが渦巻いた時代に、その根底に流れていた「武士道」、「名こそ惜しけれ」(名を惜しむ)とは何かを教えてくれるのがこの本である。

「自律した心」を持つこと、自分で決めた「モノサシ」にしたがって行動することで心を成長させること、「いたわり」「他人の痛みを感じること」「やさしさ」を自ら訓練して身につけることなど、今の時代、どこかに置き忘れているようなことではないか。
福澤先生の「独立自尊」、この本を手がかりに考えてもらいたいものだ。

1960年生まれ。1985年筑波大学大学院体育研究科コーチ学専攻修了。体育学修士。1985年神奈川県私立森村学園中・高等部常勤講師。筑波大学体育科学系準研究員・文部技官(1987年)、慶應義塾大学体育研究所助手(1990年)、専任講師(1995年)、2005年から現職。専攻は体育方法学(剣道方法論)・コーチ学(剣道コーチ学)。

司馬遼太郎の「武士道」