
新年度が始まり、早くも2ヶ月が経とうとしている。新たな環境で、これまでの殻を破って一歩を踏み出そうとする人も多いだろう。この春、慶大を卒業した元乃木坂46の北川悠理さんも、まさにその一人だ。彼女は3月末に自身のYouTubeチャンネルで「アメリカで女優を目指す」という新たな挑戦を発表した。大学4年次に乃木坂46を卒業後、カリフォルニア大学で演技を学び、映画『しあわせなんて、なければいいのに。』で初脚本・初主演に挑戦した北川さん。芸能、留学、脚本、芝居と、多様な挑戦を続ける彼女に、その原動力や大切にしている価値観などを聞いた。
「好き」と「夢」をきっかけに踏み出したアイドルの世界
−北川さんは、高校2年次に坂道合同新規メンバー募集オーディションを受け、乃木坂46に加入されました。オーディションに挑戦しようと思った理由について教えてください。
中学2年生の時、学校にとにかく馴染めなくて、一人でいる時間が長かったんです。その時期に乃木坂46を知って、そこから映画やドラマと並んで、乃木坂46の存在に凄く救われていました。それが応募した理由の一つです。あとは、幼稚園生の頃、初めてミュージカルを観た時に抱いた「舞台の上で歌って踊り、人を笑顔にしたい」という想いがずっとあったんです。その2つの想いが重なって、自然とアイドルになりたいと思い、応募しました。
アメリカ留学で得た「自己肯定」と「探究心」
−カリフォルニア大学への留学で得た新たな学びを教えてください。
2つあります。1つ目は、様々な興味がかけ合わさることで、強みになることに気づけたことです。留学以前は、好奇心旺盛で興味が分散しがちな自分の性格に対して「何故こんなにも集中力が分散してしまうのだろう」と悩んでいました。でも、アメリカで、映画の撮影や演劇作品の制作にあたって、慶大の授業で学んだ起業の知識が活きた瞬間がありました。この出来事を通して、「興味を広く持っておくことで、唯一無二の掛け合わせが自分の中で生まれ、それが自分の武器になる」のだと、自分の性格を肯定的に捉えられるようになりました。
2つ目は、自分が興味を持ったことに対して、学びを止める必要がないと思えたことです。私は大学4年生で留学に行ったのですが、大学4年という締めくくりに近いタイミングで全く新しい環境で学びを始めるということに対し、不安や焦りを抱いていました。でも、アメリカで毎日新しい知識を得たり、経験を積む中で、自分の体の面積がどんどん広がっているみたいな感覚になったんです。その時に、自分はこの感覚が好きだと気付けて、そのおかげで学び続けることへの恐怖みたいなのがなくなりました。
ファンへの感謝の気持ちから始まった映画脚本への挑戦
-留学された後、2024年5月に初脚本・初主演を務めた映画「しあわせなんて、なければいいのに。」を公開なさっています。この映画の脚本はいつ頃から構想し、どういった気持ちで制作に挑んだか教えてください。
きっかけは、お芝居がすごく好きだったことです。演技をしている時は一番自分らしくいられるし、一番自分の感情に素直になれるんです。だから、ずっとお芝居やりたいなと思っていたんですけど、なかなかお芝居できる機会に恵まれなくて。それで、グループを卒業するときに、卒業にあたって「ファンの方に今までの恩返しがしたい」「最後に同期のメンバーと何かがしたい」と思って何ができるか考えていた際に、ずっと叶えたかった演技の機会も待つのではなく、自分で作ることができないかと思って、事務所の方に「こういうメンバーで、こういう趣旨で映画を作りたいんです」というのをプレゼンしました。そうしたら、面白い脚本を書けたら考えると返されて。そこで「その期待に応えてみたい」と思って、「初めての脚本で、どこまで面白く書けるかは分からないけれど、必ず書き切ろう」って脚本を書き始めたのが始まりです。

自然体でいられるアメリカで演技力をさらに磨く
-3月30日にご自身のYouTubeチャンネルで「アメリカで女優を目指す」という発表をされていましたが、今の心境をお聞かせください。
心境としては、もちろん不安はすごくあります。ですが、この発表は長く準備したうえでのものだったので、伝えられてよかったという気持ちが1番です。ファンの皆さんに応援してもらって今までやってこられたので、今まで私を応援してきてくださった皆様がどう思うのかがすごく気になっていました。でも、発表動画のコメント欄にはポジティブなコメントが多くて、「良かった、優しい、ありがたい」って思いました。あと、どこの国の方なのかは分からないのですが、英語でコメントを書いてくださっている方もいらっしゃるんです。そういうのもすごく嬉しいなと思いました。
-なぜ「アメリカで」目指そうと思ったのかについて教えていただけますか。
『ウエストサイドストーリー』を、スピルバーグ監督がリメイクされた映画を見て、すごく心が動かされて、これが作られた場所でお芝居をしてみたいって思うようになりました。あと、カリフォルニア大学で学んでいた時に、大学の演目のオーディションで大学院生もいる中から主役の最終候補まで残してもらえたり、学外の演劇祭で大学代表チームのリーダーにしてもらえたりとか、そういう経験が少しずつ自信になったので、またアメリカに戻ってきたいと思っていたんです。それに、小学校時代をアメリカで過ごしていたので、アメリカではその時の無鉄砲な感じでいられるというか、自分の感情にリミッターをかけずにいられるんです。私がお芝居する上で大事だと思っていることが、表面的な表情ではなく、実際に自分の気持ちがそこにあることなんです。大いに全てを受け入れて、感じて、表現できる環境でお芝居に挑戦できたら、きっと自分にとっても新しい気づきがあるだろうし、そういう環境の方が演技力を磨けるのではないかと思って、アメリカで女優を目指すという決心をしました。
挫折さえも「未来の糧」に
−これまで様々な挑戦をされてきた中で挫折したことはありますか?
挫折は人生の中で沢山経験してきました。
−どのようにして挫折を乗り越えておられますか?
「挫折をのちにどう捉えるかは自分次第」だと思うので、「あの経験があったから今はこういう風に成功できた」とか、「言われたことはすごく悔しかったけど、そう言ってくれたあの人に感謝だな」というふうに挫折をポジティブに捉えています。辛いことがあった時に、「もう嫌だ、辛い」で終わらせるのではなくて、悔しいから「じゃあこれをどうやって後々ポジティブな経験になるように変えられるだろうか」って考えています。挫折の中でも良いことを無理やり抽出して、次につなげていく感じで、挫折なんて1回もなかったことにしようって感じです。挫折した悔しさをモチベーションに変えて、挫折を挫折として残さないように務めています。
「今」のモチベーションを大切にする
-ご自身の中で大切にされている価値観や信念はありますか?
その時に自分がやりたいこと、1番モチベーションがあることをしっかり考えることですかね。その時のモチベーションって逃しちゃうと、返ってこないと思うんですよ。「あ、これやりたいな。でも今じゃないから5年後にやってみよう」みたいな判断のほうが賢い場合ももちろんあると思います。でも先の未来で人生いろいろ何が起きているか分からないし、「今と同じ熱意を持って、また挑戦することができるだろうか?」って思うんですね。だから、モチベーションがある時に、そのモチベーションを使って頑張りたいと思っています。
あと、これはアプローチの仕方みたいな感じになってしまうんですが、この夢に向かって挑戦したいってなった時に、私は頑張り方が分からなくて頑張れないのが一番もどかしくて辛いので、夢を叶えるために必要なものを整理しています。些細なものでも全て書き出して、それをカテゴリーに分けて、常にそれらが頭の中に浮かんでいる状態にしています。
-最後に、新しいことを始めることに対して迷いを抱いている方々に向けて、北川さんご自身の経験からアドバイスをいただきたいです。
まず、これやりたいけど、どうだろう?と思えている時点で、それはすごく素晴らしいことだと思います。やりたいことに対して、どの部分に自分が不安を抱いているのかを分析して、それが分かれば大きな不安が小さな不安に変わって、それに対してどうアプローチしようか考えやすくなるかなと思うので、そういう風にやっていくといいと思います。
【プロフィール】
北川悠理(きたがわ・ゆり)
元アイドル。慶應義塾大学経済学部卒業。
2018年に坂道合同新規メンバー募集オーディションに合格後、アイドルグループ「乃木坂46」のメンバーとして活動。2023年に乃木坂46を卒業し、カリフォルニア大学サンディエゴ校に留学。2024年に自身が初めて脚本を手掛けた映画『しあわせなんて、なければいいのに。』を公開し、2025年3月にアメリカで女優を目指すことを明らかにした。
(成沢緑恋)