昨今、演劇の関心が高まっている中、慶大最大の公認演劇サークルである創像工房 in front of. が12月に公演を行う。今回は12月公演「叢雲」の企画責任者である原光(はらひかる)さん(経4)に話を聞いた。

 

公演作品の紹介

 

物語の舞台は2038年12月24日のクリスマスイブ。主人公である星宮紫音(ほしみやしおん)は大人気漫画家として活躍する。だが、彼は未来から来たのではないか、彼の描いた漫画は現実世界の予言書なのではないかという奇妙な噂がたつ。そのことに興味を持った、小説家の雨田成也(あまだなりや)が取材に訪れ、物語は進む。物語の鍵となるのは、正体不明の人物から星宮が言われた「ねえ、お母さん死ぬよ、だから星宮君のお母さん死ぬ」という一言である。

 

作品に込められた思い

 

企画責任者でありながら、本公演の演出や脚本を手掛ける原さんにとって、謎解きのような要素がある本作品にはさまざまな思いが込められているという。まず好きなジャンルであるサスペンスの物語をオフラインの「なまもの」として舞台上でお客さんに届けたいという思いである。その中でも未来予知や予言などのSF的要素を、お客さんにも体感させる演出が見どころである。

 

演劇における「自由さ」

 

劇中に登場する小説の内容を可視化するために、音響や照明でもこだわりがあり、そこではスタッフワークが重要となる。特に、舞台装置などは人の個性が出る部分であり、それぞれアイディアを出し合いながら、自分のやりたいことをぶつけることができるという。コロナ禍の影響で、これまでサークル内で何となく続けていたセオリー的なものが途切れているからこそ、本作品ではこの演劇の自由さを後輩にも伝えていきたいという思いがある。

現在、公演に向けて稽古の真っただ中ということで、稽古の話も伺った。原さんは、演技面で人間的な動きの表現の難しさを明かした。従来は刀などの道具を使用したダイナミックな動きが多かったため、人間の繊細な動きは新しい試みだという。演劇らしい動きではなく、できる限り人間のリアルな動きに近づけるためにどう工夫するのかを試行錯誤中だが、これをスキルアップの機会だと前向きにとらえている。これも演劇の「自由さ」の見せどころだ。

 

重要なのは「仲の良さ」

 

本講演は、工房員(所属するメンバーの通称)4年生の卒業公演となる。参加者は1~4年生の100人以上に上り、現在のメンバーで作り上げる最後の作品となるため、思いも強い。1年生のフレッシュさと4年生の経験値を掛け合わせた団体の最大火力を見せたいと意気込む。そのためには、みんなの仲の良さが重要だという。

演劇は公演が注目されがちで、過程が現れにくいが、それを楽しみたいという思いがあった。当初は、企画参加者同士の関わりが少なく、お互いのことを知らなかったため、会話する時間やきっかけを意識的につくっていたという。工房員たちは、真面目に演劇をやりたい、サークルとして楽しくやりたいなど、求めることは人それぞれである。そのような中で、どのように運営していくかが難しいところではあるが、一つの作品を作り上げるためには仲の良さが必要だ。そこに学生演劇ならではの楽しさがあると感じているという。そのため、今では演劇以外でも日吉で毎週交流を楽しむなど、サークルは和気あいあいとした雰囲気である。また、コミュニケーションを取ることによって意見を言いやすくなったという。ときには、脚本家やスタッフ、演者間での、「見せたい形」の違いから、思いをぶつけ合うこともある。ただそれも良い作品にしたいという演劇への真剣な思いからのものだろう。

今回の公演は、観に来たお客さんが目新しい演出やストーリー性を含んだ物語を、エンターテインメントとして楽しめるようなコンテンツになっている。演劇を見たことがない人にも、みんな誰しも経験がある「あるある」な部分を見つけてもらいたいとのこと。

ぜひ、クリスマスの季節に「叢雲」の世界に潜り込んでみてはいかがだろうか。詳細は下記に掲載。公式のSNSアカウント・WEBサイトなどからも確認できるのでそちらもぜひ。

 

12月公演「叢雲」フライヤー

 

公演日時:12月22日(金)の13時、18時30分と23日(土)11時、14時45分、18時30分。

会場:慶大日吉キャンパス塾生会館地下1階合同練習室C。

料金:22日が学生800円、一般客1300円、23日が学生1000円、一般客1500円。

予約:公式WEBサイトから(https://sozokobo.com/murakumo)

服部花保