《フェイクニュースと向き合う》第3回 BuzzFeed Japan籏智広太氏に聞く―ファクトチェック実践現場

現在日本におけるファクトチェック記事の発信は、ネットメディアがその中枢を担っている。BuzzFeed Japanの籏智広太氏は、これまで数多くのファクトチェック記事を手掛けてきた。連載〈フェイクニュースと向き合う〉第3回は、ファクトチェックの実践に迫る。

ファクトチェックについて説明した前回はこちら

「小回りの利くネットメディアだからこそ」

ネット上のデマ情報は近年問題視されてきた。誤情報は特に選挙時や災害時に流れやすく、何度も繰り返し真偽不明の情報が出回る状況だ。籏智氏は、誤情報に惑わされないために、メディアとして取材や資料の分析をもって正しい情報を発信する必要があると語る。特に、小回りの利くネットメディアだからこそ取り組むべきだという問題意識から、自身がファクトチェックに力を注いでいるという。取材先が横断的になりやすいファクトチェックだが、ネットメディアは動きやすく適している。

怪しい情報が登場したらファクトチェック

実際に籏智氏が行ったファクトチェック記事(籏智氏Twitterより)

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籏智氏は平時の場合、ツイッター等SNSの監視を通じ、疑義言説(怪しい情報)が登場したタイミングでファクトチェックを行っている。一方有事の時は、疑義言説が広まることをあらかじめ予測し、先回りする意識を待って誤情報が出ないか待機していると話す。例えば選挙時や、今年2月のウクライナ侵攻があったような場合には、有事に対するキーワード検索などを駆使して誤情報を待ち構える姿勢をとる。

ファクトチェックの対象は、言説の影響の大きさや緊急性によって決まる。「いいね」やリツイート数を一つの指標として、拡散度の高いものがメインの対象になる。また、拡散していなくても緊急性を持ち、今後拡散する可能性があるものもチェックを行う。他にもオフラインで拡散する誤情報もあり「総合的に判断している」と説明する。

実際の誤情報の検証作業は、まずオープンソースを用いた検証から始めるという。いわゆる「普通の検索」と同じグーグル検索など基本的な検索を用いる。加えてメディアが使用可能な有料のデータベース、ネット上で有志が指摘する声を参考にする。より詳しく調べる際には、動画や画像が虚偽ではないか調べるツールも使用し深堀する。そうして有害だという感覚を得た場合は、実際に取材を行うこともある。チェックの対象となる誤情報の種類によって対応が異なる。

Googleと提携したアーカイブ機能

ファクトチェック記事は即時的な誤情報の訂正のほかに、アーカイブ的な役割も果たしている。BuzzFeedのファクトチェック記事はGoogleと連携しており、デマ情報のあるキーワードを検索したときにファクトチェック記事があると、それが検索上位に表示される仕組みになっている。

「ファクトチェック記事が残ることで、その情報を参照しようとした人たちに訂正情報が広がる」と籏智氏は説明する。

ろう者にまで広がった「尊いの手話」

大拡散した誤情報「尊いの手話」について籏智氏が取材した記事(籏智氏Twitterより)

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籏智氏自身も誤情報を拡散しかけた経験がある。2018 年に Twitter で拡散された「尊いの手話」というツイートは当時 8 万リツイートを超えていた。一見かわいらしい手話に見えた画像は、実際には、手話事典の画像を加工して作られた虚偽の画像だった。急激に拡散された誤情報は実際にろう者にまで広がっていた。

「誰かが“ネタ“で流したものが他者を傷つけたり、世の中を混乱させるケースが非常に多いのではないか」と危機感を抱く。

正直、次々増える誤情報チェックしても意味ない?

一方ファクトチェックをしても、誤情報は生まれ続けなくならないという指摘もある。籏智氏は、「なくならないとは思いつつも、やり続けるのも非常に大事だと思っています」と話す。誤情報の拡散は一定のパターンを持っているのだという。ファクトチェックを積み重ね、そのパターンを知ることが、誤情報の拡散を防ぐ予防策にもなる。その典型例には、「災害等に広がる混乱型のもの」、あいての主義主張を否定するような「政治や立場の違いを利用したもの」、「差別目的で使われるもの」、「海外の情報の誤訳もの」、「ジョーク系のもの」等が挙げられる。

「熊本地震では、ライオンが脱走したというデマが被災者を混乱させた。明治時代に熊本地方を襲った地震でも『火山が噴火する』といったうわさが広まって市民が混乱したという記録がある。パターンは一緒です」

過去の類似ケースから災害時の誤情報に注意を促すツイート
(NPO法人ファクトチェック・イニシアティブTwitterより)

誤情報「軽く見ない」認識を!

籏智氏は誤情報への向き合い方について、まずは「自分が騙されないとは思わない」こと、加えて個人が情報を拡散する前に「一度立ち止って調べる」姿勢を強調する。誤った情報が拡散することへの危機認識は社会に少しずつ根付いてきたという。「手話」のケースのように、簡単に世に出た誤情報はネットの中だけで完結せず、誰かを傷つける可能性がある。そうした「誤情報を軽く見ない」認識が共有される必要があると語った。

(乙幡丈翔)