「ファクトチェック」という言葉を耳にしたことがあるだろうか。総務省が2020年2月に出した「プラットフォームサービスに関する研究会最終報告書」では、フェイクニュースや偽情報への対応の一つに「ファクトチェック活性化のための環境整備推進」を掲げている。誤情報のまん延を防ぐためにファクトチェックが注目されている。

 

連載第二回では、ファクトチェックという概念と、その現状に迫る。

 

ファクトチェックとは何か

ファクトチェックは一言でいえば、「真偽検証」となる。政治家など公人の発言や、ネット上で流れるさまざまな情報が、事実に基づいたものかどうか事実確認を行い、その検証の結果を発表する取り組みである。ファクトチェックの推進・普及に取り組む認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(以下、FIJ)のガイドラインでは、ファクトチェックの定義を

「公開された言説のうち、客観的に検証可能な事実について言及した事項に限定して真実性・正確性を検証し、その結果を発表する営み」

としている。ファクトチェックにはさまざまなかたちがあるが、発信された情報が事実かどうかを確認し、結果を発信するという部分は共通する。

 

単なる「事実確認」と異なるのは、検証の結果、対象の言説が事実であっても事実でなくとも公表する部分だ。仮に対象が事実に基づいたものであっても、「これは事実に基づいた正確な情報だ」という発信を行う。

 

事実に基づいた情報の提供

ファクトチェックの目的は、検証対象が事実に基づいているかどうかを調べ、伝えることだ。これによって事実に基づいた判断の材料を提供することができる。注意すべきなのは、ファクトチェックは言説の内容の是非を評価する行為ではないということだ。内容の良し悪しではなく中立な立場で、純粋に検証する情報が「事実に基づいているか」に目を向ける。そのため実際に行う際には主観を排し、非党派性、公正性を持つことが必要になる。検証の対象となるのは、あくまで第三者も検証可能な情報だ。

 

現在のファクトチェックの先駆けの一つとなったのは、2000年代初頭の米大統領選のファクトチェックだ。政治家の発言をそのまま報じるのではなく、検証して公表するという取り組みだった。今では世界でファクトチェックが広がっている。

 

 

実際の事例~首相の消費税増税発言は事実?~

例えば、認定NPO法人インファクトでは、今年4月にツイッターで拡散された、「岸田首相が参院選挙で大勝したら『消費税を更に19%に増税する』と発言している」という言説をファクトチェックした。実際にこの発言があったか事実を調査し、首相の今までの消費税についての発言に加え、記者会見の内容を調べた。その結果、岸田首相の発言はなかったとして当言説を「虚偽」と判定した。(実際の記事はこちら

 

認定NPO法人インファクトの発信したファクトチェック記事

 

 

日本のファクトチェックの現状:日本はファクトチェック発展途上国?

現在日本におけるファクトチェックは、「ファクトチェック」という表現が日本で使われだした2016-17年と比べると活性化している(表1)。一方海外と比較すると量的に劣っている状況だ。表2は、日本と近隣の韓国、台湾とのファクトチェック記事数の比較である。「大手メディアが積極的にファクトチェックに取り組んでいるとは言えない」とインファクト編集長の立岩陽一郎氏は説明する。

 

表1:日本におけるファクトチェック記事数の推移〈提供:認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ〉

 

表2:日本・韓国・台湾との比較〈提供:認定NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ〉

 

その要因と海外との違い

この大きな要因の一つに、ファクトチェックの実践者の不足がある。メディアの人手が不足していくなかで、ファクトチェックをしたほうが良いという認識はあるが、実際に人員を割いて実践に移す余裕がないのだという。他にも、公職選挙法の解釈をめぐる問題や、海外に比べファクトチェックを専門的に扱う団体が少ないという要因がある。

 

海外では特に選挙時のファクトチェックが盛んな傾向にある。一方日本では、選挙時のファクトチェックに対して消極的だと立岩氏は説明する。その大きな理由は、メディアが選挙時の公平性に慎重になるためだ。

マスメディアは公職選挙法や放送法によって、政治的に公平であることを求められる。例えば新聞・雑誌の場合、公職選挙法の第148条(新聞紙、雑誌の報道及び評論等の自由)に「表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない」という一文がある。これは一般的な報道や評論を制限するものではなが、その解釈をめぐって公平性に慎重になり、大手メディアがあまりファクトチェックを行わなくなるのだという。

 

 

若者の参加がカギに

立岩氏は「若い人には是非積極的にファクトチェックに取り組んで欲しい」と語る。若い世代が担い手になり、実践する姿を見せていくことがが、ファクトチェックを社会に根付かせる近道になる。ファクトチェックには公開情報を使ってできるものが多い。立岩氏は「誰でもできる」ものだと強調する。それぞれが「自分がファクトチェッカーだ」という意識を持つことが、自身の誤情報の発信や拡散を防ぐことにもつながる。

 

FIJでインターンをしている柴垣貴也氏(総4)は、「自分が絶対に正しいという認識を取り払う」必要があると語る。誤情報は特に現代的なものではなく、今までもうわさなどの形で存在してきた。自分が騙されないことなどないという意識を持ったうえで、発信源の確認や複数の情報源にアクセスするなどして、誤情報に惑わされない努力が必要だ。

 

ファクトチェックの拡大に向けて

今年の参議院選でもファクトチェックが行われた。ファクトチェックは正しい判断材料を提供するための重要な行為だ。誤情報のまん延を防ぐために、ファクトチェックの拡大が一つの解決策となる。若い人材がファクトチェックの担い手として積極的に関わることが、社会における普及や、個々が誤情報を広げない意識への手掛かりとなる。

 

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