《塾員インタビュー》料理家・フードコーディネーター 星野奈々子さん

慶大卒業後日本IBMにてITエンジニアとして働きながら本格的に料理の勉強を始め、退社後フードコーディネーターとして独立した星野奈々子さん。現在は、書籍や雑誌の出版、企業のレシピ開発、フードスタイリングなどの活動をしている星野さんに話を聞いた。

 

写真:カウンターに向かう星野さん(写真=提供)

 

–現在料理家として活躍されている星野さんですが、料理の道に進んだきっかけを教えてください。

昔から料理が好きで、自分で何か事業をやりたいなとずっと考えていました。しかし、経営する立場の人間が料理が全くできないのは説得力がないと思い、コルドンブルーというフランス料理の学校に通い始めました。そしたらすごく面白くてハマってしまって。「これが私のやりたかったことだ」と思うようになりました。

また、学生の頃からずっとフランスへの憧れがありました。大学の授業の一環であったフランス研修が今でも印象に残っています。冬休みの時期に2週間ぐらい、フランス語の先生とフランスへ行ったのですが、先生たちがすごくグルメでさまざまなレストランに連れていってくれました。何を食べても本当に美味しくて、あらゆる食文化があるフランスへの憧れが強くなっていきました。あと、私が好きなのは家庭的な料理ではなく、理科の実験みたいな料理なんです。小学校の頃から理科の自由研究などが大好きで、夏休み1ヶ月かけて自由研究をやるような子どもだったのですが、フランス料理も科学実験的なところがあって。フランス料理はすごく楽しかったですね。

起業するということに関しては、大学時代に入っていた経営管理学のゼミや、周りの友達の考え方や生き方に影響されたおかげで、あまり抵抗がなかったような気がします。

 

写真:星野さんが作ったフランス料理(写真=提供)

 

–趣味の道に突き進むことに対して怖くなったことはありませんでしたか。

日本IBMを辞めるときは体力的に限界で、辞めざるを得ない状態でしたが、それでもやっぱり怖かったです。毎日の収入を突然失いましたし、何をするにしても最初は仕事がゼロの状態で、貯金を切り崩してやっていくのはすごく不安でした。

でも、辞めたらすごく元気になりました。自分が本当に心の動く方向に進んでないから、自分の身体がブレーキをかけていたのだと思います。料理に向けてどうしたら仕事になるかを模索していた時期は、全然辛くなかったです。

 

 

–フードコーディネーターとして独立されてから苦労したことはありますか。

人前に出たり大勢の前で話したりするのが苦手なんです。最初はそういうお仕事を無理してでもしていましたが、やっていくうちに自分にはマイナスしかないと思うようになりました。できる人をうらやましいと感じたり、できたらもっと仕事の幅が広がるだろうなと思ったりもしましたが、それをしたところで私には何も残らなかったんです。

個人的に、特にテレビに出ることは、本当にマイナスでしかありませんでした。自分が出版した料理本を買ってくれる人が私の名前を知ってくれる分にはよいのですが、ただただテレビでなんとなく観られて名前が有名になっていくのは、その相手にとって全く価値がないと思っています。メディアから有名になるということをしたくない気持ちがどんどん強くなっていて、無駄に知名度を上げるような活動はしないようにしています。

会社で働いていた頃や独立してからもしばらくは、嫌なことでも何でもとりあえずやってみるのが当然だと思って何よりも仕事優先で動いていましたが、今では本当にやりたいと思う仕事しか引き受けません。お金など関係なく、報酬がすごく高くてもやりたくないことはやらないし、謝礼なしでもやりたいことはやっています。そのように決めていると、自ずとやりたい仕事しか来なくなってきて、今ではあまり断ることもなくなりました。

 

 

–星野さんが料理や食事に対してどのような考えを持っているのか知りたいです。

コルドンブルーを卒業する際、「料理はやっぱり愛情ですよ」と恩師に言われたのが印象的でした。どのようなシチュエーションで料理を作るにしても、「こうしたら食べやすいかな」「こうしたらもっと美味しく感じるかな」というように食べる人のことを考えて、ちょっとした心遣いをする。それを言葉ではなく、料理から愛情を伝えることができるのかなと思っています。

私は小5の息子がいますが、料理を結構作ってくれるんです。私が疲れていて、「料理したくない」「なんかやだな」とふと思っているとき、なぜかスーッと現れてきてくれて、料理をしてくれます。もちろんそれでも私がメインディッシュを作ったり、息子が作るための準備を一緒にしたりするので、何もしなくてよくなるわけではないです。でも、自分一人で全部やらなければならないという気持ちから、その子が一緒に来てやるよって言ってくれるだけでどこかすごくほっとして、「なんか頑張ろう」と思えるんです

 

写真:ある日の息子の料理(写真=提供)

 

–料理が誰かを幸せにするという考え方、とても素敵ですね…。

でも、逆に言うと、料理がすごく人を苦しめる場合もあるなと思います。今の日本では、朝昼晩毎日ご飯を作って食べるのが普通だと思っている人が結構多いですよね。コルドンブルーの恩師の「料理は愛情」という言葉も、「母親が外で買ってきたものでなくて手料理を作ることに愛情を感じる」というような、ちょっと批判的な感じで思われがちです。

会社勤めをしている人や、共働きで子どもがいる人にとって、毎日料理をするのはとても負担だと思います。外食でもいいし、どこかで買ってきてもいいし、一品だけ作るのでもいいし、3日分ぐらい作り置きして同じものを食べるのもいいと本当は思っています。

休みの日などに好きで楽しいと思ってやる分にはいいと思うのですが、「すごい料理を毎日作って家族に食べさせるのは素晴らしい」とされるような社会は、変わっていった方がいいのではないかと思います。

 

–塾生にメッセージをお願いします。

そういうアドバイス的なことは本当にないです。あんまり他人の言うことを聞かないことも大事なんじゃないかなと思っています。(笑)

 

 

(柴田憲香)