サステナブルな仮想投資ゲーム

慶大と東京ガスが共同し、『エコファンディングゲーム』を開発した。エコファンディングゲームとは、エコな会社を立ち上げ、投資家からお金を集めるという仮想投資ゲームである。4人以上の参加者が、エコなアイデアを出す社長役とエコな投資家役に分かれ、投資金額を多く集めた社長役が勝利となる。楽しく投資や環境について学ぶことができる今回のゲーム。その制作背景について、『エコファンディングゲーム』の制作・監修に携わった、慶大文学部の杉浦淳吉教授に話を聞いた。

教授と東京ガスは度々、双六やトランプなど、子供達の省エネ行動を促進するツールを共に開発してきた。その共同研究の中で、今後の展開も視野に入れて開発されたコンテンツが『エコファンディングゲーム』であった。このゲームには、温めていた元ネタがあったという。それが大学の授業内で、環境とゲームをつなげる取り組みとして制作していた「説得納得ゲーム」である。子供達に授業で利用してもらうことを目指し、環境に配慮した商品をお互いに売ったり買ったりする設定であったが、時勢に合わせ、投資の要素を加えた『エコファンディングゲーム』へと昇華した。

養われる能力とは

『エコファンディングゲーム』は、社長役と投資家役それぞれに意図するものがあると杉浦教授は語る。社長役ではサステナブルな社会に必要な“発想力”を養ってほしいという。気候変動やSDGsへの関心が高まる中で、まさにドラえもんのような突飛な発想までも求めているのだそうだ。実現可能かどうかを検討する前に、どんな社会を目指すべきかを想像し、その社会にするためのアイデアを考えることこそが大切なのだ。またそのアイデアを投資家に納得させるプレゼンテーションの過程にも教授の狙いがある。このゲームでは、社長役はアイデアを「エコ事業計画書」にまとめプレゼンテーションを行い、投資家役はそれを受けて質問をする。相手を納得させる言動についても考える機会を与えているというわけだ。そして投資家役では、支持を集め資金を集めうるアイデアを見定める力を身につけてほしいと語る。先見の明、つまり他の投資家の動向などを総合的に精査する力は、社会に出てもさまざまに応用の利く力である。

人に伝えることの難しさ

今回のゲームを制作する過程で苦労したことは、知らない人にルールをいかに伝えるかということであると話す。限られた文字数の中で、ルールを理解させる説明を考えることは難しい。そこで今回のゲームでは、小学校高学年~中学生用と高校生~大人用の2種類を制作し、それぞれの世代に適したアプローチで説明を行う工夫をしたという。さらに既成のゲームを利用し、テーマのみをエコに変更することで、ゲームの複雑化を避けているそうだ。

こうした“どうやって伝えるか”という難題は、どうやって相手の行動を変えるかということを研究対象としてきた、社会心理学者である杉浦教授にとって、本領を発揮する場となったようだ。環境について考えてもらうために、ゲームという手段をとったのにも理由がある。教授によると、我々はゲームによって勝ち負けを経験することで、感情を伴って学ぶともに、安全な失敗を積むことができるという。現実の問題構造をゲームに反映させたまま、設定のテイストを変えることで、ゲームという仮想の世界を現実に対応させていくことができるようになる。
学校教育の現場での活用が増える中、今後の課題もある。ルールの追加とそれによるゲームの複雑化である。このバランスを今後どのように取っていくのかが難しいと教授は語る。投資を集めることが評価される現時点でのルールでは、支持のあるアイデアへの投資だけが正しいとなってしまう。しかし現実はそうではない。前衛的で画期的なアイデアへの対応が必要不可欠である。

まだまだこれから

「遊びの中に学びがある」と教授は熱く語ってくれた。「ゲームを通じて、もしこうだったら我々に何ができるのかを考えてほしい。実現可能かどうかは二の次」。馬鹿馬鹿しいアイデアこそ、社会問題を打破し、サステナブルな社会を作り出すに違いない。また『エコファンディングゲーム』が実践される中で、創出されたアイデアの結果をもとに、エコな事業計画書集を作りたいと話す。さらにはコンテストの開催も視野に入れているようで、今後の展望に期待が膨らむ。

慶大文学部の杉浦淳吉教授

(佐藤伶香)