2011年3月11日に発生した東日本大震災から11年。震災を契機に始まった慶應義塾の南三陸プロジェクトをご存じだろうか。慶大経済学部教授であり、南三陸プロジェクト代表の津田眞弓先生にお話を伺った。

 

 

『慶應義塾・南三陸プロジェクト』とは

 

震災発生直後の2011年7月26日、日吉から南三陸町へ、有志の教員・塾生が向かったことに始まった、南三陸プロジェクト。「何かしなければ」。その思いに駆られ、学校林がある宮城県南三陸町を選んだ。GW・夏休み・三田祭・春休みに、2020年3月まで約8年間・全97期、3泊4日の合宿を基本として活動した。

 

2011年夏1期の活動報告には「つなげること」「活動の土台を作ること」を意識していたとある。南三陸町は地震で甚大な被害を受けた。日常生活から逸脱して、実際に困っている人を目の前にすると、テレビやネットで見ていた世界とは異なる世界が広がっていたはずだ。津田先生はキャンパスではできない学びをきっかけに成長する塾生の姿を見てきた。「させていただくこと以上に、教えてくださったことが山ほどある」という。

 

生きるのに必死なときにも関わらず、南三陸町の人々の,ご厚意を受け、長い目で我々を育てて下さった。先生自身も、気が張っていた最初の年に「先生こっちきな」と出来たばかりの仮設住宅に招き入れられ、休めと言われたことを思い返す。

 

 

ニーズに沿った活動

 

南三陸プロジェクトのスローガンは『被災地に行くのではなく、南三陸町へ行く』から『南三陸町のサポーターになろう─慶應の森から南三陸町とつながる』へと変化したように、ひとりよがりな支援を極力避け、その時のニーズに応じた活動をしてきた。町の方にも津波の際に何が生死を分けたか、避難所をどう運営したかなど、さまざまなお話を聞いて学び、町が変わっていく様子を見る。

 

年を経て大きかった津波の爪痕が風景から消え始めると、新しい参加者は震災のイメージを持ちにくくなっていく。ボランティアのニーズの減少に伴い、南三陸プロジェクトは震災の時と同じ形の活動には、区切りをつけた。

 

 

東日本大震災をきっかけにして

 

最後の夏合宿。津田先生はお世話になった方々に挨拶するのと同時に、町長、学校長、漁協長、観光協会など、町の様々なキーパーソンにインタビューをして回った。

 

8年間、学生が築いた絆をどう生かすか。

 

その解決の一つが、慶應と町が協定を結ぶことだった。今後も南三陸町とつながり続けたい。東日本大震災をきっかけに結ばれた南三陸町との絆は、慶應義塾の財産である。半世紀に及ぶ学校林のつながりを、たくさんの塾生が汗を流して強固にしたのだから。

南三陸プロジェクトのベース『ながしず荘』で2019年、最後の合宿の記念写真。「我々にたくさんのことを教えてくださった場所」と津田先生は話す。

南三陸町とのつながり

 

2021年3月31日、慶應義塾は宮城県南三陸町との連携協力に関する協定を締結した。南三陸町と慶應が発展的な形でつながり、南三陸プロジェクトが約8年間取り組んできたことが活かされる。

 

南三陸町との濃密な関わりや人脈…この財産をどのように活かしたらよいか、塾生に問いたい。

 

 

南三陸町を研究の舞台に

 

南三陸町は境界線が分水嶺になっており、町内すべての川の水が志津川湾に注ぐという希少な地形を持つ。自然豊かで調べ物をするのに適しているのだ。ボランティアに行くイメージではなく、南三陸町を舞台に新しい社会のあり方を考える実験場にして欲しい。

 

防災・IT・マーケティング・地域振興・教育・スポーツ・歴史・地理・人文学など、どんなジャンルでも構わない。例えばSDGs実現に向けて、自然と共存する南三陸町で卒業論文を書くのはいかかだろうか。

 

南三陸町では大学や研究者・企業が南三陸町を舞台に研究をして欲しいいう願いのもと、窓口として「南三陸学会」が立ち上がるそうだ。

 

 

塾生注目‼塾生のアイデア募集!!

そして慶應でも、プロジェクトに参加した塾生が主体となり、今年4月から南三陸町を中心に地域活性で悩む町の懸け橋になろうとしている。

 

【活動のアイデア・メンバー募集中!!】

◎慶應RD(Regional Development)プロジェクト

連絡先:keio.regionaldevelop@gmail.com

 

南三陸町を襲った東日本大震災から11年の時が流れた。慶應が作り上げた基盤を大切に、塾生には南三陸町とつながり続けて欲しいと願って止まない。

津田眞弓(つだまゆみ)先生。慶應義塾大学経済学部教授、慶應義塾・南三陸プロジェクト代表

〇慶應義塾・南三陸プロジェクトHP
https://keiominamisanriku.wixsite.com/keiominamisanriku
〇三田評論オンライン【Keio Report】慶應義塾・南三陸プロジェクト 8年間の軌跡
https://www.mita-hyoron.keio.ac.jp/other/202004-keio_report.html

〇2011年~2019年 慶應義塾南三陸プロジェクト 活動報告書
https://130b4629-f9ff-6410-eb37-9c99820eb356.filesusr.com/ugd/c11ef8_7babd582bbaa435a97e45f48a72b7331.pdf

〇2012~2019年 慶應の森の活動(動画)

高橋明日香