今年も夏に入り、熱中症に関するニュースが増えている。熱中症といえば、炎天下の屋外での事故が多い印象であるが、熱中症救急搬送者数の約4割は屋内の事例である。そこで今回は慶應大学理工学部システムデザイン工学科の伊香賀俊治教授に屋内での熱中症の実態について取材した。

 

室内での熱中症の実態

そもそも屋内の熱中症で搬送される人のうち、ほとんどが高齢者であると言われている。高齢者が住む古い住宅は屋根や外壁に断熱材が設けられていないことが多く、そのため壁や天井の表面温度が上昇し室温が上昇することもある。その際体温も必然的に上昇してしまうと指摘する。

伊香賀教授は「高齢者は気温の変化に対して鈍感です。室内の温度が上昇しやすい部屋に住んでいるうえに、気温の変化、自身の体温変化に鈍感であるため、高齢者の室内での熱中症は重症化してしまう危険性があります」と語る。

エアコンの使用率も熱中症のリスクに影響する。搬送された人のうちエアコンを使用していなかった人は全体の4割、そもそもエアコンが設置されていなかった家は約半数であるという統計も出ている。このことからも高齢者は若者に比べて温度を感じる感覚が鈍くエアコンを使わない傾向があるという。エアコンの設定温度が「28度を超えたあたりから熱中症の危険性が高まるため、これでは十分な熱中症対策が出来ているとは言えない」

これに対する有効な手段として、断熱材が設置された家に移り住むことやエアコン、扇風機の使用を徹底することだ。

昼だけではない熱中症の恐怖

最低気温が25度以上の熱帯夜の年間日数は年々増加しており、就寝中の室温にも注意する必要がある。就寝中にエアコンを付けない、あるいは付けていても高いせってい温度にしていたり、数時間で切れるように設定していたりする人も多いのではないだろうか。しかし伊香賀教授これでは熱中症対策としては不十分だと警鐘を鳴らす。

「温度を低くし、タイマーの時間を長く設定することで翌日の知的生産性が向上します。具体的には寝ている間は26度くらいの低めの温度で、起床するまでエアコンを付けたままにすれば、熱中症対策としては十分な効果が期待できます」

コロナと熱中症

また従来の夏とは違いコロナ禍においては感染対策のために窓を開けて換気する。しかし、その一方で熱中症予防のためにエアコンをつけて部屋を涼しくすることを忘れてはならない。

「これらを同時に行うことは矛盾しているように感じるが両立させていくことが大切です。オフィスや学校など不特定多数が集団で過ごす場所は感染リスクがあるので、熱中症にならないように注意しつつ、ある程度の換気が必要です」

その際、換気しすぎると室温が上昇してしまうので適度な調整が求められる。

コロナと高齢者

コロナ禍で高齢者の熱中症のリスクは特に上がっている。コロナ禍で家にいる機会が多くなり、あまり運動ができていない高齢者が増えているが、これが熱中症のリスクが高まる要因の一つであると指摘する。

「運動不足になると筋力が低下してしまいます。水分は筋肉に蓄えられるため、筋肉が衰えるとその分水分を保持しにくくなり、熱中症になりやすくなります」

また、運動する機会が減ると汗をかく機会も少なくなるため、汗をかきにくい体になってしまうという。そうなると、運動したときや暑い環境で過ごすとき、汗がうまくかけず体の熱を外に逃がすことができない。このような運動不足からくる熱中症には、例年以上に注意しなければならないと伊香賀教授は語る。

運動時の熱中症の危険性

屋内でのマスクを着用したままでの運動は特に若者も気をつけなければならない。「屋内の部活動などで、冷房設備がなく、扇風機のみを使用し、さらにマスクをしたまま運動するケースがみられる。これも熱中症の危険性がとても高く、改善するべきです」

そもそも運動をしていなくても、マスクは熱中症予防と相性が悪い。マスク内で温められた空気を吸うので体温がなかなか下がらないのだという。「マスクが原因で呼吸しにくくなり、体内に熱がこもってしまうことがあります。これに加えて運動をすると、その分体温が上がるので、かなり危険であると言えます」

つまり屋内で部活動をする際は、窓を開け、換気扇を回すなどの対策だけでは不十分であるということだ。伊香賀教授は冷房設備が完備されている場所で十分冷房を効かせ、こまめに水分や塩分を取りながら運動することが必須であると語る。

コロナ禍の真夏は例年と違う部分も多くあるため注意が必要である。自分や自分の家族のために今一度室内での熱中症対策について見直す必要があるのではないだろうか。

(横田光輝)