東日本大震災で被災した宮城県東松島市で誕生したソックモンキー「おのくん」。東松島の復興を願い、「東松島を知ってほしい。東松島に来てみてほしい」という思いから生まれた。今も、東松島の主婦らを中心とした「お母さん」たちが、毎日、手作りしている。

東松島発の「おのくん」 全国へ

宮城県中部に位置する東松島市は、石巻市と松島市に隣接する。石巻市は、東日本大震災で大きな津波の被害を受けたことで知られている。震災遺構にも指定されている旧大川小学校では、全校児童108人中74名と、教職員10名が犠牲になった。松島町は、「松島や ああ松島や 松島や」の句でも有名な日本三景の松島の観光のイメージが強い。

他方で、東松島市には、東松島駅という名称の駅や高速道路のインターチェンジがなく、県外から来る観光客が「東松島」という場所を認識する機会が少なかった。東松島市には、航空自衛隊のアクロバット飛行チーム「ブルーインパルス」が所属する松島基地があることで有名だが、基地名にも東松島は入っていない。

「東松島」の知名度向上に一役買っているのが、ソックモンキー「おのくん」だ。アメリカ発祥のソックモンキーは、靴下から作るサルのぬいぐるみだ。仮設住宅の子ども向けのプレゼントとしてソックモンキーが届いたことをきっかけに、2012年4月20日、80世帯約400人が住む小野駅前応急仮設住宅内の20畳ほどの集会場で、おのくんは誕生した。

現在の活動の拠点は、2015年5月に陸前小野駅前に建てられた「空の駅」。日々、お母さんたちが、おのくんに命を吹き込み続けた結果、おのくんの輪は、全国へと広がっていった。

現在の活動拠点の「空の駅」。お母さんたちと里親さんたちをつなぐ大切な場所だ。(写真=提供)

東松島との「縁」つなげ

おのくんは、サイズ、色などに関係なく1000縁で里親さんの元へ旅立つ。おのくんのプロジェクトの共同代表を務める新城隼さんは「おのくんは、販売ではありません。東松島との縁をつなぎ、また里帰りしてほしい。通貨の単位の円ではなく、縁という表記を意識的に用いています」と語る。

おのくんや東松島を知らない人とつながるきっかけになったのは、メディア出演だった。テレビドラマ、アニメ、情報番組など、様々なメディアにおのくんは出演している。

TBSで放送されたドラマ「空飛ぶ広報室(2013)」では、出演後、里親になりたい人からの電話やファックスが殺到した。「一つしか電話回線がなかったので、なかなか電話がつながらなくて困った方もいたと思います。一晩中ファックスが流れ続けていました」と新城さんは当時を振り返る。

他にも、読売テレビで放送されている「情報ライブ ミヤネ屋」のスタジオにいるおのくんについては、毎日のように「おのくん見つけたよ」といろんな人から連絡があるという。最近では、テレビ朝日で放送されている「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」のスタジオにも登場した。

さらには大人気アニメ、名探偵コナンのエンドロールにもおのくんは出演している。コナンに出演する声優陣とのつながりがきっかけで、最終的にはエンドロールに大々的に登場した。放送時には、「コナン おのくん」がTwitterでトレンド入りした。

「めんどくしぇ」が合言葉

おのくんの名字は「めんどくしぇ」。これは、特に初期の頃、お母さんたちが口々に言っていた言葉だという。

「慣れない縫い物を急にやることになったお母さんたちは、針に糸が通らず、誤って指を刺してしまったときに、『めんどくしぇ』。来客のコーヒーやお茶の用意のために立ち上がるときに、『めんどくしぇ』。他にも、照れ隠し的な意味で、集会場にたくさんの人が来た時に『めんどくしぇ』をいうこともありましたね」

おのくんという名前がまだない頃、この様子を見たNHKの小野文恵アナウンサーが、「めんどくしぇ人形」と色紙に書いた。それがきっかけで、「めんどくしぇ」が名字になったという。

 

「3つのかんきょう活動」で伝えたい想い

おのくんの掲げるテーマを象徴的に表すのが、環境・感教・間協という「3つのかんきょう活動」だ。1つ目は、東日本大震災で失われた自然環境や生活環境にもう一度目を向け、0から作り直す環境活動。2つ目が、一緒に感動する体験をするという意味の感教。これまで挑戦したことがないことをやってみるといろんな感情が動くのではないかという思いから、里親さんたちのアイデアも取り入れながら、朗読会やワークショップを開催する。3つ目は、○○間協力という意味での間協。里親さんの協力のもと、おのくんは様々なプロジェクトを成功させてきた。過去には、おのくんのデザインのタンブラーを作ることで、おのくんの着ぐるみをつくるプロジェクトを成功させた。その時に生まれた着ぐるみは「でっかいおのくん」として、各種イベントで人気を博している。

「でっかいおのくん」は、最初に作られた「おのくん」のデザインがモチーフになっている。(写真=提供)