法務省司法試験委員会は1月20日、2020年の司法試験合格者を発表した。今年度は最終合格者が1450人(前年度比52人減)、受験者が3703人(同763人減)で、共に新試験に完全移行した12年以降で最少を更新した。慶大法科大学院からの受験者251人(同49人減)に対し合格者は125人(同27人減)で、合格率は49.8%(同0.9ポイント減)であった。慶大は大学別合格者数で東京大に次いで2位、同合格率で愛知大、一橋大、東京大、京都大、東北大、鹿児島大に次ぎ7位となった。なお予備試験通過者の合格者数は378人(同63人増)で、合格率は89・4%(同7.6ポイント増)であった。

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今年度の司法試験は、19年度に法科大学院を修了して初めて試験に臨んだ受験者の合格率が50.6%となり、法科大学院修了後の最初の試験で合格した人の割合が初めて5割を超えた。慶大でもその割合は64.8%と高く、未修者コースでも受験者16人に対し、合格者8人と好成績を残した。このことについて慶大法務研究科委員長の北居功(きたい・いさお)教授は、今年度の結果だけでその要因を断定することは難しいとした上で、「少なくとも慶大法科大学院の教育の中身が数字に反映された結果だと自負できるだろう」と語る。

 

コロナ禍での試験延期、学生への影響大きく

昨年、新型コロナウイルスの感染拡大はさまざまな業界に大きな影響を与えたが、司法試験もその例外ではない。2020年司法試験は当初、5月に論文式試験、短答式試験を実施予定だったが、共に8月に日程が延期となった。

この試験日程の延期について、北居教授は「慶大の今年度の受験者数減少と直接の影響があるとは断言できない」と前置きした上で、慶大の受験生への影響として次のように語る。

「例年、試験に向けて勉強する修了生が多い三田キャンパスの自習室が、今年は感染拡大防止のため完全に閉鎖されていた。そのため、学習環境を整えるのに苦労した受験生が数多く出てしまったのは試験延期の影響として大きい」

加えて、司法試験は当初いつまで延期かはっきりしなかったため、受験生は正式発表があるまでモチベーションの維持や、学習サイクルの構築に少なからず影響が出たかもしれないと北居教授は推測する。

 

進む試験制度改革 司法試験はどう変わるのか

全国の法科大学院が今、直面する問題が、「学生の法曹離れ」だ。法科大学院は、予備試験と比べて経済的、時間的負担が重いことから入学志願者の減少傾向が続く。今年度の司法試験は初めて合格者数が政府目標の1500人を下回った。

こうした状況を打破すべく、政府は、最短3年で大学の学部を卒業し、特別枠で法科大学院に進学できる法曹コースを今年度から施行した。学生の経済的、時間的負担を減らすことで、法科大学院への入学者数を増やす狙いがある。

この法曹コースについて北居教授は、「これまでは少しでも早く合格しようと、短期間で受験できる予備試験へ流れる学生が多かった。そういう意味で、法曹コース新設により法科大学院の卒業が最短で2年早まるというのは、学生と大学の両者にとって大いに意義がある」と評価する。

さらに23年度には、条件を満たせば、法科大学院在学中に司法試験を受験できるようになり、例年5月に実施される試験が7月に早まる予定だ。慶大はこれらの変更に対応すべく、カリキュラムの大幅な改訂も実施する。この改革に関して北居教授は「在学中の受験が可能になり、試験日程も早まったことによるメリットは多いが、その合格難易度は低いとはいえない。希望者が全員合格できるものではないため、この制度に関しては慎重に見極める必要があるだろう」と指摘する。

慶大も法曹離れへ対策を打っている。5年ほど前から法曹の魅力を正しく伝えるべく、慶大附属高校を中心に高校生へセミナーを開催している。大学に入る前から少しでも司法試験との距離を縮めてもらうのが狙いだ。法科大学院協会が主催するキャラバン企画も、初めは数えるほどの高校生しか集まらなかったが、年々参加者は増え、今では中規模のセミナーになっているのだという。

 

近年景気が比較的良く、就活状況も安定していることから学生からの人気低迷が続く法曹界。北居教授は「社会の中で、個々人のあるべき役割を正当に訴えるのが法曹の役割。社会正義のために貢献していきたいという意欲を法曹資格に結びつける人が増えてほしい」と語った。