日吉キャンパスの陸上競技場。ここで日々己の限界に挑戦する一人の選手がいる。慶大総合政策学部卒業生で、2016年リオデジャネイロ五輪陸上4×100㍍リレー銀メダリストの山縣亮太選手だ。山縣選手は現在セイコーの社員アスリートとして在籍している。

2017年の全日本実業団対抗選手権と2018年のアジア大会で100㍍10秒00の記録を出した。9秒台の記録は間もなく出るのではと感じるが、山縣選手自身、今季は調子があまり上がっていないという。

「昨年の冬、フロリダでは技術的な練習よりも、自分自身のベースを上げることを重視していた。自分が持つ技術とベースの歯車を合わせれば9秒台には到達するだろう」山縣選手はこう思いながら練習に取り組んでいたが、春先においては調子が上がってきていないと話す。

その要因は技術的な部分にあると考えた山縣選手はスタートの技術向上に力を入れている。「スタートの起き上がりが早いので、そこを低く出られるようにしている」

日々、惰性で練習せず、1本1本をどういうテーマで走るかを明確にして取り組んでいると話した。

山縣選手の記録が飛躍的に伸び始めたのは高校3年生の頃だ。その頃と現在を比べると、走ることによる楽しさの感じ方が、年を重ねるごとに変わってきていると語った。現在の陸上競技の醍醐味は達成感であり、「走ることが好き」という純粋な気持ちだけがモチベーションではないという。

怪我や調子の悪さなどを乗り越えた先にある達成感が、現在の喜びになってきていると山縣選手は話す。「自分が頑張って結果を出すことで、喜んでくれる人や応援してくれる人が少なからずいる。それにより、結果を出して良かった、頑張ってきて良かったと自分の中で思えるようになってきている」

山縣選手は、大学時代には体育会競走部に所属していた。競走部は5月の関東学生陸上競技対校選手権大会で、関東1部への昇格を果たしている。この活躍をどう見ているか尋ねると、毎年力のある選手が多く入部してきているため、競走部の活躍は非常に楽しみにしていると答えた。

他の強豪校に比べると、慶大の選手層は厚くない。しかし、慶大という環境のもと、自分で考えながらしっかり練習に取り組む生徒は、日本のトップレベルにたどり着く選手になれると思うと話す。「そういった意味で、今回競走部が1部に昇格できて良かった。後輩たちには、上手くいったこといかなかったこと全部を活かして成長してほしいと思う」

東京五輪まで残りおよそ1年。緊張感も高まる中で、山縣選手の目標は「個人で決勝に行くこと」。そのためには準決勝で9秒台の記録を出し、決勝では9秒8台に迫る記録を出すことが必要だと話した。また、リレーでは「世界一」がかかっているので、チームの原動力になりたいと抱負を述べた。山縣選手の今後の活躍の期待に、胸が膨らむ。

(土屋海渡)