【慶應俳壇】 3回~戸を開けて耳の涼しくなりにけり~ 

本井英 選

 戸を開けて耳の涼しくなりにけり               
  文1 沼あゆみ

 季題は「涼し」。「涼し」という言葉は王朝の文学以来、常に理想に近い心地よさを表している。ある朝、作者は雨戸を開けたのであろう。「窓」ではなく、「戸」、しかも引き戸である。にわかに朝の外気に包まれた作者の「身体」の、「耳」がことさら「涼」を受け止めた。実際の裏付けのある、正確な感覚の表出を尊いと思う。

水馬影は水面を欺かず                    
経1 橋本慎也
 
 季題は「水馬」。「あめんぼう」である。そのあまりの軽さ故、水面を馳せ回る、あの面妖なる虫。その水馬の水面に四つんばいになっている「影」が水面にある。そのクッキリした映像を「水面は影を欺かず」と詠まずに、「影は水面を欺かず」と詠む作者の視線を評価したい。あくまでも主体は「水馬」なのだ。
  
梅雨晴をおほみづあをの触れ回り                
理3 稲垣秀俊

 季題は「梅雨晴」。クラシックに言えば「五月晴」。じとじとと降り続いた「雨の日々」の中休み。「おほみづあを」は「オオミズアオ」。うす水色をした大型の「蛾」である。梅雨晴れ間のある日、一頭の「オオミズアオ」がわさわさと壁や柱に「触れ」ながら、舞っていたのだ。「触れ回り」には、「触る」だけではなく、「お知らせして回る」という重層的な意味も感じられて楽しい。

談笑もなき食堂の五月闇                 
商学部 講師 高橋幸吉
 
 季題は「五月闇」。梅雨の頃の「うす暗い」感じ。本来は無月の夜の続く、夜の暗さを言ったものであったろうが、俳人はいつの間にか、昼間の「うす暗さ」にも転用している。「食堂」はどこでもよい。会社でも学校でも。どの人物もひたすら「食う」ことに閉じこもっているのである。「現代」の何かが詠み止められている。

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