6月26日、渋谷のライブ会場に集まった200名を超える若者たち。ステージ上の出演者に喝采を送るその姿は、自らの周囲のことにしか関心がないと批判される「最近の若者」のイメージときれいに重なる。だが彼らがこの日参加したのは、カンボジア支援のために開かれたチャリティライブ。プロのパフォーマーも登場したが、出演者のほとんどは現役の大学生。日体大や立教大の学生のほか、慶大からもバンドサークルK.B.R. society the KALUAや、慶應奇術愛好会KMSに所属する学生が参加した。イベントの収益は、日本のNGO団体「MAKE THE HEAVEN」を通じて、井戸造りなどカンボジアへの支援に充てられる。
 「LIVE & PIECE」と題されたこのチャリティライブイベントを仕掛けたのは、塾生が運営する学生団体S.A.L.だ。「エンターテイメントを通して多くの人に国際問題のリアルを伝えよう」というコンセプトのもと、昨年より本イベントの準備を進めてきた。イベントの趣旨を説明し交渉を続けた結果、プロを含めすべての出演者が報酬なしでの参加を了承してくれたという。ライブの途中では、同団体のメンバー自らが、カンボジアの水事情や識字率について簡単な紹介を行う時間も設けられた。バンドの演奏などに熱狂していた観客が、一気に白けてしまうのではないかという心配もあったが、本番では多くの人々が熱心に話に耳を傾け、ライブ後に回収されたアンケートでは、好意的な感想が多数寄せられた。
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 国際問題の啓発などを目的として、S.A.L.が発足したのは昨年6月。団体名は、Send out(国際問題を伝える)、Aid(助けを求めている人を救う)、Learn(世界の現実を知る、学ぶ、理解する)という、団体の3つの理念を示す。当初数名だったメンバーは、イベントを重ねるごとに自然と増え、現在では79名の大所帯。先月には慶大の公認団体となった。「ここまで大きくなるとは思わなかった」と、同団体代表の森島聖さん(文2)と籏智広太さん(環2)は口をそろえて、語る。
 現在1、2年生のみで構成されるS.A.L.だが、その企画実行力やフットワークの軽さには目を見張るものがある。「自分たちの眼で世界を見たい」と、メンバーの一部で昨年夏にパレスチナの難民キャンプなどを訪問したのを皮切りに、SFC秋祭でのフェアトレードカフェの出店や、パレスチナの難民支援のためのフリーマーケット開催、日本とカンボジアの子どもたちの写真を通じた交流行事の主催など、様々なイベントを次々にこなしてきた。ジャーナリストの広河隆一氏が編集長を務める報道写真誌「DAYS JAPAN」と提携しての報道写真展も、既に数回開催している。同誌主催で、今年の9月30日より横浜赤レンガ倉庫で開催される、横浜国際フォトジャーナリズムフェスティバル「地球の上に生きる2009」では、反貧困ネットワーク副代表の雨宮処凛氏とのトークショーを行うほか、写真展示を行うS.A.L.独自のブースを設ける予定。10月末からは、代官山のギャラリーで写真展を主催することも決まった。活動にあたっては「大変なことばかり」だと森島さんは話すが、好調とは言えない経済状況の中でも、S.A.L.の理念を理解し協力してくれる企業、団体は少なからずあるようだ。
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 チャリティライブの際、森島さんは集まった大勢の観客を前にして「まだ国際協力が何であるか、分からない」と語った。籏智さんもイベント終了後のミーティングで「自分たちが伝えたかったメッセージは伝わっていなかった」と、自ら厳しい評価の言葉を口にした。自身の活動への、こうした謙虚さと厳しさが、S.A.L.の活動を「単なる学生の自己満足」に終わらせていないのだろう。
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 S.A.L.の詳しい活動詳細やイベント告知などはブログ(http://sal.seesaa.net)を参照。国際問題をテーマに扱ったメールマガジンも発行中だ。       

 (花田亮輔)