【多事創論】これからの大学教育を考える 元駐米大使 藤崎一郎氏

元駐米大使 藤崎一郎氏

【連載主旨】 多事「創」論
「自由の気風は唯(ただ)多事争論の間に在りて存するものと知る可し」「単一の説を守れば、其の説の性質は仮令(たと)ひ純精善良なるも、之れに由て決して自由の気を生ず可からず」。世の中は一つの考えでまかり通っている訳ではない。だが、多様な意見こそが決められた道のない今の時代を生きる我々にヒントを与えてくれるはずだ。福澤諭吉が唱えた自由の気質になぞらえ、広く多くの意見を集めて現代社会の課題を考えていきたい。

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昨年11月の教育再生実行会議で提言された入試制度の改革や、秋入学制度の実施検討、就職活動時期の変更など、大学教育は新たな局面を迎えている。今回、話を伺ったのは早稲田大学総長の鎌田薫氏、元駐米大使の藤崎一郎氏である。現在の入試制度の問題点や大学生に求められる能力とは何か。 (早稲田大学鎌田薫総長の記事はこちら

元駐米大使 藤崎一郎氏

社会を見通す基礎を修得 英語を身につけ国際化に対応

藤崎一郎氏は1968年、慶大経済学部在学中に外交官試験に合格。以後外交官として世界各国を飛び回り、2008年から4年間駐米大使を務めた。現在、上智大学及び慶應義塾大学の特別招聘教授。大学教育の改革が進む中、改革が公平な観点から行われることや、学生がまずは基礎となる社会の仕組みや英語を身につけることを提言する。


入試に求められる公平性 論理力を問うのは入学後


私自身内部進学で入試は経験していない。その前提で言えば、現在の日本の入試制度は皆に機会の均等がある。社会の公平性に寄与しており、その部分は失われてはならない。大学は誰にでも開かれるようにする必要があり、新しい制度は客観性や公平性がある限りにおいて導入されるべきである。

論理的な文章記述や発表の能力は重要だが、これらを磨くべき場は主として大学及びそれ以降のOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)だ。高校まではそのための基礎を学ぶものである。今の時点で言えば、論理的な記述、発表を教えることのできる先生が全国の高校に均等にいるとは思えない。入試での採点も難しい。AO入試では可能かもしれないが、一般入試で直ちに論理性に重点を置くと公平性に影響を与える恐れがある。

大学入学後において、物事の本質が何であるか、それをどう説明するのかなどといった教育が今後一層求められていく。社会に溢れる膨大な情報の中から必要なものを選び取り、要点だけを伝えることは難しいが重要なものである。何が大切かを考えて、簡潔に説明する訓練をすることが大学生にとって必要だ。私は大学院や学部のゼミでこれらを教えている。

英語を学び自ら国際化に対応 教える側の教育も拡充

現在、秋入学制や4学期制の導入など国際水準に大学制度を合わせていく流れがある。こうしたことに関心を持つのはいいが、今の大学生には制度が変わるのを待つ余裕はないはずだ。まずは自分自身の「国際化」をはかることを考えた方が良い。英語をきちんとできるようにすべきだ。国際的な言葉は英語であり、どこの国であろうと一定レベルの人は英語を話す。聞く訓練が大事だ。時間のある大学生のうちに身につけることが得策である。社会に出たら余裕を持って英語を学ぶことは難しくなる。さらに大学時代に英語を身につけることで、将来の選択肢も広がるだろう。

英語教育で何が一番重要かといえば教員の人材確保だ。中学・高校の英語教師を留学させて教育の質を上げる方が全体の底上げに繋がる。1人の教師が30人のクラスを1年間5クラス教えると、30年間で5千人もの生徒を教えることができる。子供たちが受ける恩恵は大きい。まずは教える側の人材を養成していくのが良いだろう。

大学生に求める基礎の習得 学生が自由に羽ばたく環境の整備を

大学時代に重要なのは社会に出るため基礎をしっかりと固めることである。それは語学に加え社会の仕組みに繋がるような経済や法律の基本的なことを抑えていくものだ。たとえ今起きている政治、経済や社会現象について詳しくなったとしても、10年後には状況は変わっている。しかし基礎を抑えていれば、一般的にどこに行っても通用する。世界に共通する基礎の習得に力を注ぐべきだ。

社会人になったら仕事に追われ、自分が成長するために知識を得る時間が取りにくくなる。まとまった時間が取れる大学生の間は、自分の能力を高めるために時間を費やしてほしい。自分が将来何をしたいのかをよく考え、進みたい方向を早めに決めるべきだ。その準備のため、大学を徹底的に利用し、自発的に学ぶ姿勢が求められる。

学生が自由な場所で羽ばたけるように、大学は、奨学金や留学する際の支援を充実させるなど環境を整備していくべきだ。