【500号Project 塾生×教授】「就活」の現状を問う

総合政策学部卒 麻田貴之さん 兵庫県宝塚市生まれ。慶應義塾大学総合政策学部を2014年3月に卒業。大学時代は上山信一ゼミに所属し、NPO法人BOOSTERで活動する。現在は都市銀行に勤務。
現在、日本は多種多様な社会問題を抱えている。こうした問題を慶應内の教授と問題に接している塾生から3回に分けて切り込んでいく。第1回の今回は、就職活動の問題について商学部の樋口美雄教授、そして学生団体BOOSTERに所属する麻田貴之さん(2014年度総合政策学部卒)にお話を伺った。
以後、樋口教授:樋、麻田さん:麻(敬称略)  (今里茉莉奈)

―「就活うつ」にかかる学生もいるほど就職活動が過熱化していますが、就活生はどのように就活と向き合っていけばよいのでしょうか。

麻:「就活、就活」と世間が騒ぎすぎることや、親からのプレッシャーが「うつ」にまで陥ってしまう一つの要因かもしれない。就活うつというより、就活ホリックになっている人が多いという印象があります。

樋:就活が大変なことは間違いないが、大切なのはこれに向かう姿勢。自分がテストされていると受け身に思う人が多いが、就活は自分が成長し、キャリアアップする積極的チャンスだと考えることも大事。学生生活を通じ社会と十分な接点がなかった人も多いと思うが、就活を通じ、人は企業でどのように働いており、どう企業や社会に貢献しているのかを知り、自分が将来何をしたいのかを考え、どう生きてきたかを振り返るチャンスでもある。就活を機会に大きく成長する人も多い。

麻:私も就活が人生のステップアップの段階だととらえるのは大事だと思いますね。欧米では卒業後に既卒者と共に就活を行うため若者の失業率が高い。一方、日本では企業は新卒のためだけにステージを用意してくれているのでそれは低い。日本の就活が必ずしも悪ではないと思う。

―就活の開始時期の変更にあたり、新3年生はどう対応すればよいでしょうか。 

商学部 樋口美雄教授  専門は、労働経済学・計量経済学。商学博士。75年慶應義塾大学商学部卒業、80年同大学大学院商学研究科博士課程修了。85~87年米国コロンビア大学客員研究員。91 年より現職。95~96年スタンフォード大学客員研究員、オハイオ州立大学客員教授。前商学部長、日本経済学会会長。現在、日本学術会議経済学委員会委員長、厚生労働省労働政策審議会会長等公職多数。

麻:就職活動の時期は今までも再三変更されてきました。でも遅くなったからといって、数ヶ月説明会があって一斉に面接がスタートという選考過程が大きく変わることはないので、焦りを感じる必要はないと思います。個人的には就活中、SFCで履修選抜がありその都合で取りたい授業が4年生で選べないことがありました。それが学業において唯一の障害かな。

樋:今の3年生からは広報活動は3月から、採用選考活動は8月からとかなり遅くなる。夏休みに選考活動ということになり、これは授業との両立を考えるとプラス。これまでは大企業が採用活動を行い、その後中小企業という流れがある一方で、大企業は採用を数段階に分割するなど、採用活動自身が長期化していた。だが開始時期が遅くなることで、短期決戦となり、効率化されるだろう。だがどちらにせよ、どこで働きたいのか下調べを十分にして、就職活動に臨む必要がある。

―企業と学生のミスマッチで、若者の離職率が高いと聞きますが、これを防ぐにはどうすればよいでしょうか。

麻:これは企業にも原因があると思います。採用過程で夢を書かせて語らせるから、就活生の「こういうフィールドで働けるんだ」という思いが膨らむ。でも実際に就職してみると、特に総合職として働く場合であれば、その思いとは違う業務に携わるということだってあります。行きたい業界は積極的に選ぶべきだが、そこまで望みすぎないのもミスマッチを防ぐうえでは肝要かな。

樋:考えられるミスマッチの一つは、就活の時に採用は中小企業が多いが、希望者は大企業に行きたがるなど、その条件が合わないミスマッチ。もう一つは就職した後すぐにやめてしまう、その原因としてのミスマッチ。若者の離職率が高いと言われるが、それは企業によってさまざま。企業によっては、例えば最初は工場に配属し、企業全体を見通せるよう経験を積ませるところも多いが、その企業の趣旨や目的を十分に理解することなしに、直ぐにそれが嫌だとして辞めてしまうケースなどしばしば目にする。企業が社員に何を求めているのかをよく理解し、それを受け入れられるかどうかで企業を選ぶことも重要。そういったことを十分理解していないと、与えられた仕事が自分の希望と違うからといって、直ぐに企業を辞めてしまったのではお互いに不幸だと思う。企業の意図を十分理解し納得して、就職先を選ぶことも必要。そのためには、企業名などに惑わされることなしに、企業が公開している人材育成や活用、定着率などの情報、人事部の説明、先輩方の話をよく聞き、自分に合う会社かを自分の目で確かめ判断することが大事でしょう。または現場で働いている先輩を見て、こういう人たちと一緒に働きたいかを考える。働き方に賛同できるかどうかも重要になってくる。これらを考え、決断する必要がある。

―日本の雇用体系にはどのような弱点があると考えられますか。

樋:日本の場合、学校で勉強してきたことと、会社に入ってから必要とされる職業能力は必ずしも連続していない。就職というよりは就社。本人がどういう仕事をやりたいかより、むしろ会社を選んで、会社から与えられた仕事を担っていくことが多いのが弱点。大企業などでは入社してしばらく経つと、特定の関連した部署を移動しながら専門的能力を高めていくことになる。最近では、そうした能力を転職時に活かす動きもみられるようになったが、これまでは前の企業の経験を次の職場で十分に生かせないことが多く、自らがキャリアを形成して行くことが難しいといった面がある。

麻:ただ日本のそういう状況に対しても、最近は柔軟になってきていると僕は思います。入社前に自分で職種を選べる職種別採用になっていたり、企業側もうまく日本の弱点を克服しようとしているかも。学生と向き合おうとしていることを強く感じます。

―最後に、 現在就活中の新4年生、今年から就活の新3年生へメッセージをお願いします。

樋:就活は人生を決める重要なプロセスの一つだが、やってみたらなんとかなることもある。そんなに恐れる必要はない。だが、ちゃんと自分を見直し、将来のことを考える機会にした方がよい。考えることは自分を成長させることになる。

麻:学生という立場は有利だと思う。学生だと言えば大体の社会人は会ってくれる。学生の立場を活用して社会人にアプローチをしていけばいい。これは就活の時に限らず1年生からでもやればいいと思う。