
塾生会議は公募および本学の全学部からランダム抽出で選ばれた塾生たちが専門家のアドバイスを受けながらSDGsを実現するための慶應義塾のヴィジョン・目標・ターゲットを提言するプログラムだ。参加者らは環境・経済・社会・全体・の4つのテーマに分かれ、ディスカッションを重ね、それぞれの課題解決に即したアクションを12月に塾長に提言する。
2024年12月18日に、2024塾生会議最終提言発表会が日吉キャンパス藤原洋記念ホールで行われ、2024塾生会議に参加した各グループがこれまでの活動成果を発表した。
今回、また、これまでに塾生会議に参加した塾生たちは、具体的にどのような経験をして発表に臨んだのだろうか。2024塾生会議最終提言発表会に参加した、社会グループ① (安藤彩夏さん:法政1年、渡壁葉月さん:法法1年、高橋怜那さん:文1年、成沢緑恋さん:文1年)に話を聞いた。また、環境グループ③の山崎日向さん (経済1年)、2023年度の塾生会議に参加された大岩みかさん (経済2年) には文書形式で取材した。※学年は取材当時の学年。
◯フードロス削減と生きる力を養うための料理教室
社会グループ①は最終提言発表会で、キャンパス内に料理教室を開くことを提案した。
この料理教室のコンセプトは、中高生のときに学校で習った家庭科の延長であること。また、フードロスを減らすなど環境に配慮しつつ、塾生の心身の健康をサポートするというものだ。 この料理教室は SDGs のうち、2番の「飢餓を防ぐ」、3番の「全ての人に健康と福祉を」、12番の「つくる責任とつかう責任」に繋がっている。
料理教室は、50 人程度で半年に一回、平日の5限から開催することを想定している。費用は一人 1000 円以下と、比較的割安である。発案のきっかけは、社会に出る前に基礎的な生活スキルを身につけておくべき必要性を、各メンバーが認識したことにあるそうだ。主に一人暮らしの人、料理を学びたい人、友人を作りたい人、健康的な食生活を送りたい人をターゲットにしている。食生活が偏ってしまう一人暮らしの塾生だけでなく、実家暮らしの塾生をも対象にしていることが特徴的だ。
この提言をまとめるにあたっては数々のレストラン展開を行なっている、株式会社GREEN HOUSE FOODS 様、料飲三田会の方々との協力があった。渡壁さんは、「協力の依頼やお願いをする際は、塾生としてではなく、一人の学生としての大きな責任感を感じた」と話す。
さらに、この塾生会議の特徴は提言が比較的採用されやすいことにある。 成沢さんは、実現可能性が低いビジネスコンテストとの違いを挙げて 、「提言が採用されやすくなるためには、慶應義塾が何を求めているのかという考察も必要です」 として、採用後の取り組みも具体的に考慮する必要性に言及した。
環境に配慮しつつ、自身の健康をもサポートできる料理教室。この提言が採用されれば、料理を通して交友関係の広がりも期待できそうだ。

◯有名企業からの協力を得た「学生証の電子化」
環境グループ③は今回「学生証の電子化」を提言した。発表に登壇した塾生の一人、山崎日向さんに話を聞いた。
―どのような経緯で塾生会議に参加されましたか?
きっかけは私の高校時代です。高校時代から私は SDGs に関連した研究を行い、大学に入学してからも、SDGs に関連したことを行いたいと漠然と思っていました。そうした中、塾生会議という活動があることを知りました。ここなら私と同じようにSDGs に興味を持った学生が多く集まり、建設的で興味深い話ができるだろうと思い、参加するに至りました。
―今回、試験的にデジタル学生証を運用することで、Apple 社をはじめとする、様々な企業様と提携する機会があったかと思います。そこで得られた学び、苦労されたことは何ですか?
私たちは塾生会議から、突き動かされるような情熱は伝播するのだということを学びました。この「学生証デジタル化」は、私と、班員の皆の熱意があったからこそ、様々なハードルを乗り越えて形になりました。
そもそも、Apple 様は、通常このような形で外部にご協力をくださるような企業様ではありません。 その為、実際にヒアリングに応じていただけるかと言う点も、約束されたことではありませんでした。
初回のApple 様へのヒアリングでは、説明のための具体的なイメージ画像をつくり、本気で実現したいと思っていることをアピールしました。 その後 Apple 様から、関連する販売業社様をご紹介いただき、また、教職員の方々から慶應情報センターの方々に繋いでいだだき、現実味が増していきました。
―今後、塾生会議の経験をどのような形で活かしていきたいとお考えですか?
今後は、熱意があればきっと相手にも伝わっていくという、「情熱の伝播」をキーワードに、学生のときも社会人になってからも、何事にも全力で向き合っていきたいです。塾生会議によって出会った大切な仲間や、そして私たちの意思を学長に伝えるという貴重な機会、学んだ多くのスキルを活用し、今後の学生生活を過ごしていきたいです。
紛失のリスクもある学生証が電子化されれば、スマホ一つで、さまざまな慶應が提供するサービスに効率的にアクセスできるであろう。大学側も、将来的な学生証の電子化を視野に本格的な検討に入っている。

◯TAとしても携われる塾生会議
この最終提言発表会には、TA(注)という形で参加した塾生もいる。そのうちの一人、大岩みかさんに話を聞いた。
― 塾生会議に、参加されるようになられたきっかけは何ですか?
入学式で伊藤塾長が塾生会議を紹介されていたので、興味を持って応募しました。
―ご自身は、前回の最終提言発表会ではどのような提言をされましたか?
慶應が循環型社会に貢献するための、教科書のシステムを提案しました。具体的には教科書フリーマーケットの開催や電子化の促進などを考えました。今回の提言発表の中には「循環型社会」をテーマにした発表がいくつかあり、私たちの昨年度の発表との関連性がみられました。
―今回の最終提言発表会に寄せる感想を教えてください。
去年よりもさらにレベルアップした発表会でした。新しいアイデアを考えようとすると、どうしても具体的な解決案に囚われてしまいがちです。しかし、今回は目的や意義をしっかり明確化した上で提言できていて、共感しやすいプレゼンテーションでした。
―塾生会議が今後、慶應義塾においてどのような意義をもつものに発展してもらいたいですか?
塾生会議の魅力は、学生の声が教職員の方々など大学全体を巻き込んで実現される点にあります。だからこの先も、大学や社会の発展に学生が積極的に関与できる場であり続けてほしいと思っています。
今年度の塾生会議に参加せずとも TA として再び関われるのは、塾生間の結びつきが強い慶應ならではであろう。 この取材を通して、塾生会議に参加した方々が、このプロジェクトを通じてどのような経験をされたのか、ほんの少しではあるが知ることができた。 塾生会議の活動を通して、自身のスキルの向上だけでなく、人との出会いなど多くのものを得られるに違いない。
注)TA: teaching assistant の略
※5月17日現在、社会グループ①が提言した「料理教室」、環境グループ③が提言した「学生証の電子化」は、どちらも慶應義塾のプロジェクトとして採択されました。
社会グループ①の「料理教室」は、6月11日に日吉キャンパスで第1回が開催される予定です。また、環境グループ③の「学生証の電子化」は、NIKKEI未来社会共創コンテストで最優秀賞を獲得し、7月に大阪万博でプロジェクト構想を発表することとなりました。
(深谷すみれ)