六月から本格化する就職活動。大学四年の就活は佳境を迎え、大学三年にとっては春・夏インターンや早期選考が始まる。この時期知っておきたいのは、醜悪な「就活ハラスメント」の実態だ。

何がハラスメントに当たるのか。どのような注意が必要か。自分や友達が被害を受けたら、どうすればいいのか。日本ハラスメント協会代表理事 村嵜要(むらさき・かなめ)さんに話を聞いた。

 

就活ハラスメントって?

 

「就活ハラスメントとは主にセクハラ、オワハラを指し、パワハラも相談・解決事例がありますが、基本はこの二つ。発生状況は、面接、内定者懇親会、合同説明会、メール、OBOG訪問など。就活中に生じたハラスメントは、全て就活ハラスメントといえます。」

セクハラ(セクシュアル・ハラスメント)は性的な誘い、言動を指す。オワハラは「就活終われハラスメント」の略。企業の採用担当者等が、就活生にプレッシャーをかけ、入社を誘導する行為だ。

 

「ホテル行こう」―立場を利用した卑劣なセクハラ

 

IT業界志望の女性就活生が体験した事例を紹介する。あるとき彼女は男性社員から「今度ご飯に行こう」と言われるようになる。採用面接が進むにつれ、誘いはエスカレート。「自分が人事部長に伝える内容次第で君の採用結果に影響が出る」彼女はなるべく笑顔で対応するも、最終面接前にこう声をかけられた。「ホテルに行こう。最終面接まで進んだのは、俺が人事部長に君のいいところを伝えてきたからだ」

彼女は協会に相談した。「自分の被害を会社に伝えてほしい」との要望を訴え、協会は企業に伝えた。そして、人事が当該男性を調査。人事部の厳重注意で終わり、男性は協会を通して彼女に謝罪した。

「就活生はこの会社が第一志望でした。内定が出ましたが、結局辞退して他の会社に入社しました。こういうことがあるとイメージが変わってしまいますよね」と村嵜さんは話す。

 

「地頭悪い」―就活生を傷つけた侮辱メール

 

エージェントを通して就活をしていた男性。不採用メールが届くが、ふつう書かれることのない理由まで、なぜか記されていた。「地頭が悪い」…許されない侮辱であった。

男性は協会に相談。調査の結果、エージェント担当者による誤送信メールだった。エージェントは協会を通して謝罪、和解した。

「就活生は傷つき、後の就活にも影響しました。自信をなくしてしまったそうです」

 

「内定承諾書出して」「常識ないのあなただけ」―焦りにつけ込み就活妨害

 

続いては、小売り業界での事例である。就活生にとっては第二志望の企業だったが、「1週間以内に内定承諾書を出してください。それで内定出します」と採用担当者に言われたという。しかし、第一志望は選考途中。担当者に相談すると、「他の人は出してますよ。常識ないのはあなただけですよ」と返されたそうだ。

就活生は協会に相談。協会が企業に伝えたところ、内定承諾書を取り消し、第一志望の就活を続けられた。しかし、第一志望には結局受からず、第二志望のその会社に入社した。

「就活生が人事担当者に相談しても、ナメられることがあります。協会のような第三者相手には、態度が変わる」

村嵜さんは就活生の精神状態にこう寄り添う。

「就活生は、親に相談しにくい。友達もライバルと思うとなかなか言えないし、友達に内定したことを伝えると、焦りや不安を与えかねない。そういう事情で内定承諾書の件を相談できずにいる就活生が多いです。悩みを吐き出すだけでも楽になるという声もありますから、ぜひ相談して下さい」

 

オワハラは禁止されているって本当?

 

「経団連は公式にオワハラを禁じています。就活生は、『オワハラをされたらハラスメント』と覚えてほしい。採用選考において、学生の職業選択の自由を妨げる誓約書を書かせないよう、政府が経団連に繰り返し求めています。依然としてオワハラをする企業はあるので注意してほしいです。オワハラをされたら『これはおかしい』と自信を持ってください」

立場の弱さにつけ込まれないよう、こういった正しい知識を身につけることが大切だ。

 

知っておきたい!就活の大原則

 

では、ハラスメントから身を守るにはどうすればいいのか。具体的な方法を見ていこう。

近年問題になっているのは、「OB、OGマッチングアプリ」でのセクハラ被害だ。自分で次のようなルールを決めるとよい。

① 時間帯の指定

「終電なくなったら家に来い」と言われることも。会う時間は昼がベスト。

② 面談場所の指定

会社の部屋や、人の多いカフェなど。居酒屋はNG

③ 日時の記録

「いつどこで」を細かく。実際に被害に遭った際に役立つ。これはハラスメント調査の原則。

 

また、企業向けガイドラインがある。就活生は、これをされたらハラスメント、と覚えておこう。

① 就活生にSNSを聞かない。

② プライベートな質問をしない。

③ 性的な冗談を言わない。

④ 性差別をしない。

⑤ 食事やデートに誘わない。

⑥ オワハラしない。

 

もし、ハラスメントに遭ったら?―自分の心を守る選択を

 

実際に被害を受けたら、どうすればよいのか。

「信頼できる人に相談しましょう。大学教員でも、親でも、友達でも、第三者機関でもよいです。ただ、覚えておきたいのは、自分に合った対応が一番ということです。相談自体がストレスになる人は、スルーした方がいいこともあります。また、告発によってその企業で働きにくくなることもある。自分の望むようにしましょう。とにかく、心が潰れてしまう判断は避けるべきですね」

もちろん、ハラスメントに遭いうるのは、自分だけではない。友達から相談された場合は、どう対応すべきか。

「友達が相談してきたら、大事なのは、寄り添うことです。サポートしてあげる立ち位置がいいでしょう。相談する人は、解決策を求めてない場合もあります。あまり重荷に感じることはありません。『ここに相談に行こう』といった、具体的なアクションは、かえって負担をかける可能性もあります」

 

 

最後に、村嵜さんから就活生へのメッセージをいただいた。

「これって就活ハラスメント?とモヤモヤする人は、早い段階で相談してください。ホットラインを無料で提供しています。でも、絶対に解決しなくてはならないわけではない。大切なのは、自分がどうしたいかです。就活ハラスメントは国、東京都、各大学も認知していて独自の対策も整備しています。しかし万全ではない。そういう社会の状況を、できれば就活を始める前に知っておくと良いでしょう」

 

ハラスメントは人権侵害だ。社会人にあるまじき卑賤な行為である。私たちは一人ではない。自分や友達の心を守る選択が一番だ。不安を誰かに打ち明けるだけでもいい。日本ハラスメント協会のように、親身に対応してくれる第三者機関がある。就活の前に、情報収集は万全にしておこう。

 

日本ハラスメント協会・就活ハラスメント無料相談ホットライン

お電話はこちらまで → 050‐5359‐8520

 

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