以下は、日本ハラスメント協会が収集した事例の数々だ。「男性はセクハラを受けない」「この業界なら安全」ということはない。すべての就活生が被害を受けうる。

ハラスメント抗議の意味でも、恥知らずな加害者の言動を掲載する。

2019 年 40 件(内 セクハラ 25 件・オワハラ 15) (男性 10 件・女性 29 件・その他 1 件)

2020 年 142 件(内 セクハラ 120 件・オワハラ 22 件) (男性 51 件・女性 88 件・その他 3 件)

2021 年 116 件(内 セクハラ 91 件・オワハラ 25 件) (男性 66 件・女性 48 件・その他 2 件)

 

・対面面接

  • セクシュアルマイノリティの方に対して「男らしい髪型、男らしい雰囲気に変えないとウチの会社は次の面接に進めないよ。客商売だから」(不動産・営業職)【男性面接官】
  • セクシュアルマイノリティの方に対して「うちの会社より、アスリート系の雰囲気の人が働いているような会社の方が合ってるんじゃないですか?」(旅行関係・事務職)【男性面接官】
  • 「筋肉すごいですね。男性濃度がちょっと前面に出すぎている」(広告・営業職)【女性面接官】
  • 「もしかして女性とあまり話したことないですか?」 「女性の敵が多そうなタイプですね。女性社員が多い会社ですが、やっていけますか?」(医療関係・事務職)【女性面接官】
  • 「○○さんは、なよなよしてるから、お客さんにナメられそうだけど大丈夫かな? (印刷・営業職)【男性面接官】
  • 女性に対して「○○さんは、うちの会社に入社したらスタイルに関してはナンバーワン級」 (マスコミ・事務職)【男性面接官】
  • 「お母さんに似ていますか?お母さんも綺麗な気がします」 (ホテル・フロント受付)【男性面接官】
  • 「○○さんは、ふっくらしているから、いい人に見られるでしょ」 (運輸・営業職)【男性面接官】
  • 「男性だらけの業界になぜ女性が志望したのですか?男性の方が相性良いのですか?」 (商社・営業職)【男性面接官】
  • 「面接時間が限られていて、自己 PR してもらう時間がなかったから、後日場所変えて時間取りましょうか?」(建設・事務職)【男性面接官】
  • 2 次面接終了後、「最終面接は難関だからね。食事でもしながら最終面接のアドバイスをしますよ」とメールが来た(化学メーカー・研究職)【男性面接官】

 

・WEB 面接

  • 男性に対して 「異性の友達は多い方ですか?」 (アパレル・販売)【女性面接官】
  • 「○○さん、声が高いですね。一応男性ですよね?」 (コンビニ・本部事務職)【男性面接官】
  • 「さわやかボーイの印象で覚えておきますね」 (保険・営業職)【女性面接官】
  • 「男性なのに、可愛い感じの部屋ですね。意外でした」(食品メーカー・事務職)【女性面接官】
  • 「SNS でフォローしているのは男性の方が多いですか?女性の方が多いですか?」 (出版・編集)【女性面接官】
  • WEB グループ面接で「○○さん以外は全員女性です。男性のプライドをかけて女性に勝てるアピールポイントはありますか?」(百貨店・事務職)【女性面接官】
  • 「顔黒いですね。日焼けがすごい」(通信・営業職)【男性面接官】
  • 女性に対して 「○○さんのスーツはパンツスタイル派?」「画面では見えないから、一瞬立てる?」 (広告・事務職)【男性面接官】
  • 「スーツの上着脱いでいいよ。リラックスした面接にしたいから、僕もさっきジャケット脱ぎました」「他の学生さんも脱いでいるよ」(金融・事務職)【男性面接官】
  • 「他の会社の採用担当者に LINE 聞かれたりしてるでしょ」 (人材・コーディネーター)【男性面接官】
  • 「目が大きいから、好印象ですね」(アパレル・販売)【男性面接官】

 

・その他の場面

  • 不合格の連絡から一ヶ月後、採用担当者から個人的なメールがきた「元気にしていますか? まだ内定出てなかったら相談に乗るよ」(化粧品・販売)【男性面接官が女性に対して】
  • インターンシップの懇親会でたくさんの学生がいるのに自分だけ座る席を指定された。後からその会社の役員が隣に座り「今、彼女募集中なんだよね」と言われた (IT・エンジニア)【男性面接官が女性に対して】
  • インターンシップで採用担当者と LINE を交換してから、しつこく食事に誘われている (lT・事務職)【男性面接官が女性に対して】
  • 大学内で行われた企業の就職説明会で、説明会終了後、採用担当者から「この後、食事に行こう」と誘われた(商社)【男性面接官が女性に対して】
  • 大学から利用を推進されている新卒エージェント会社の担当者と面談した際に、「肩が張ってるよ」と言われて、いきなり肩を揉まれた(人材)【男性面接官が女性に対して】

 

一般社団法人日本ハラスメント協会代表理事 村嵜要さん(写真=提供)

 

 

ここで気になるのは「大学は我々塾生をどう守ってくれるか?」ということだ。学生部に取材した。

 

慶大は就活ハラスメントをどう認識している?

 

「『就活ハラスメント』という言葉が広まる前から、全国の企業・団体で行われてきたと認識しており、由々しき事態と捉えてきました。 本学では、かねてより各キャンパスで就活ハラスメントの個別相談を受けていますが、年間を通して最も多いのはオワハラです。他社辞退の引き換えとして内定をちらつかせる、提出期限付の内定承諾書を発行する、内定承諾後に大学発行の推薦書の提出を求める…などが常套手段です。相談件数が圧倒的に多いということは、本学の学生が最も頭を抱える問題は、オワハラなのでしょう」

 

日本ハラスメント協会村嵜氏によれば、学生の「オワハラ」被害の対応は大学からの支援の程度によって差が生じているとのこと。慶大独自の指導は?

 

「オワハラをトピックの一つに設けた労働法セミナーを実施(マス向け)、予約制の個別相談でじっくりお話を伺いアドバイス(個人向け)、現在はこの二つを提供しています。後者については、特にオワハラの場合、企業・団体側への返答期限が迫るなど、緊急なこともありますので、その際は特別に予約なしでご相談いただけます。 例年、学生の皆さんが多く相談に訪れます」

「セミナー『知って役立つ 就活と仕事のルール~法律のプロ(弁護士)が教えます ~』(2023年4月18日開催)では、弁護士二名のご協力を得て、オワハラの対処法を主に労働法的観点から解説しています。もちろん、実際にハラスメントを行う企業・団体に対峙する場面は、労働法だけで完璧に対処できるほど、簡単ではありません。しかし、学生の皆さんが身を守るために最も必要な武器は、労働法の基本知識です」

 

参加した学生の声(アンケート結果より抜粋)

・学部問わず活用できる知識を習得でき、大変勉強になりました。

・ハラスメントについてはSNSで知っていましたが、弁護士の先生にお答えいただくことで、安心して信頼できる情報を得られました。

・3月にある企業から内々定をいただいた際、他の企業の選考を辞退してほしい、辞退しなければ内定を取り消すという内容のことを言われており、…中略…法的には縛りがないと聞いたのですが、実際どうなのか知りたく、セミナーに参加しました。この時期に開催していただき、大変役に立ちました。

 

「本セミナーは 23 年度に初めて実施しました。来年度以降も内容をアップデートしながら継続する予定です。オワハラのみならずセクハラ、パーハラ(=パーソナルハラスメントの略称。容姿、性格、癖など、個人の特性に対する嫌がらせを指す)等、他の就活ハラスメントもできる限り取り上げていきます」

 

 

ここからは、学生部の対応したハラスメント事例を紹介する。

 

「君の家に向かう」「全他社に辞退メールを送って証明しろ」―悪質なオワハラ Yさんのケース

 

Yさんは2月にA社から内定を得た。 内定通知書が手交され、雇用契約書と入社誓約書にサインをした。 しかし、まだ他社も受けたいと考えている。 以下はA社とのやり取りだ。

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4月〇日

人事ではない社員と面談をしたときに、「まだ他社も受けているのでは?人事には言わないから教えて」と言われた。「他社も受けてみたい」と答えた。

4月△日

それを聞いた人事から、休日にも関わらず 「そのような事例は初めて。雇用契約書の関係で君はもう社員であるから、君に何か起きた時に責任の所在は弊社になってしまう。だから一旦その書類を目の前で破棄させて欲しい。君の家に向かいます。会って今後の人生の話もしたい」と言われた。対面で会うのは危険と判断し、コロナを理由に断りを入れた。

4月×日

人事とオンライン面談。他社と迷っている旨を改めて伝えた。「他社の選考が終わるまで(注:Yさんは6月末までと伝えていた)は待てない。一週間後の4月□日までに決めて欲しい」と言われる。その一週間で4人ほどの社員との面談が組まれた。

4月◇日

待ってもらえないことは予想していたため、他社を辞退すると伝えたうえで実際は就活を続けよう、と考える。しかし、人事に「他社を辞退する」と伝えたところ、「じゃあ選考中の全他社に辞退メールを送信して。BCC で僕のメールアドレスを追加してちゃんと証明してね」と言われた。

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Yさんは相談時、こんな言葉を漏らしたという。 「就活を続ける中で、内定通知書を頂き、雇用契約書と入社誓約書にサインをしたことは間違っていたのでしょうか。これほどの拘束行為があることで、入社を戸惑い、内定辞退を考えています。学生としては、してはいけない事や、企業側の言葉にどこまで納得していいのかが、わかりません。不安です」

 

Yさんに対し、学生部 就職・進路支援担当(以下、就職担当)スタッフは次のようにアドバイスした。(ポイントのみ抜粋)

・内定の労働法的意味合い(労働契約の成立について)

・企業側による内定取消は正当な事由がない限り認められない。

・他方、学生側による内定辞退は辞職と同様、自由が認められている。

・A社の言動は、すべてオワハラの典型である。 真意に反して関連書類に署名をし、また、他社の選考を断念する旨を伝えてしまったとはいえ、Yさんに落ち度はない。

・他方で、人事の対応は当該企業の「すべてを映す鏡」ではない。就活中に好印象だった企業が、入社後はアンマッチ…ということもある。逆もまた然り。 内定を辞退するかは、A社への現在の思いや仕事への意欲等を鑑み、納得のいくまで検討してほしい。

・内定状態をキープしたい場合、他社選考を続けながらA社の内定を持ち続けることは可能。しかし、「A社と良好な関係を保つ」ことは難しい。

・内定を辞退する場合、相手の強硬な言葉に飲まれず、考えを一貫して誠実に冷静に伝え続けてほしい。

 

Yさんは納得がいくまで就活を続け、最終的に他社に入社したそうだ。

 

「髪、染め直してきて」―不当なパーハラ Ⅿさんのケース

 

Mさんは、生まれつき髪色が薄い。とある企業でインターンシップに臨んだところ、初日にメンターから「うちだとその髪色は明るすぎるよ。染め直してきてね」と言われた。そもそも染めておらず天然の髪色であると伝えたが、「暗い色にしたほうがいい」という言葉は変わらなかった。言われたとおりにしてしまった。

Mさんに対し、就職担当スタッフはこう助言した。

・企業の運営にとって合理的な必要性が認められない限り、企業は、インターン生はおろか、社員個々人に対して、容姿に関する自由を制限できない。

・Mさんの生来の髪色をもって、どの企業、どの職種にとっても奇抜であるわけがない。適切な指導とは到底言えない。

・社員一人の対応が企業のすべてではない。せっかくⅯさんがインターン先に選んだ企業を、その事実だけで全否定はできない。それでも、企業の体質の一側面であることは確か。他の部分もよく観察し、他社とよく比べてほしい。就職先候補に入れていいのか、切り捨てるべきか、冷静に判断してほしい。

 

 

最後に、このような温かい言葉をいただいた。

「個々のケースに適切な道案内ができるよう、労働法知識のアップデートと、企業・団体側の言動に応じた、具体的なアドバイスに努めています。どうぞ遠慮なく所属キャンパスの個別相談サービスを使ってください。時間に余裕のある方は予約を入れてじっくりと。お急ぎの方は、直接窓口に来ていただいて大丈夫ですよ」

塾生への個別相談支援は手厚い。信頼できる相談先の一つとして、ぜひ覚えておこう。一方で、他大学に比べ、サービス全体が十分であるとは言い難いそうだ。

就活ハラスメントの撲滅と、塾生の保護のために、慶大のさらなる積極的行動を期待したい。

セミナー『知って役立つ 就活と仕事のルール~法律のプロ(弁護士)が教えます ~』(2023年4月18日開催)のレジュメはこちらから。サイトには、就活全般の情報が載っている。一読の価値がある。

就職ガイダンス:慶應義塾大学塾生サイト (keio.ac.jp)

 

飯田七菜子