障害者雇用、課題山積み 義塾の雇用数も低い水準に

毎年9月は障害者雇用支援月間だ。厚生労働省は従業員が一定数以上の規模の事業主に対し、障害者の雇用義務を課している。民間企業の法定雇用率は全従業員の2.3%以上とされているが、法定雇用率の達成や、就労後の障害者の活躍は容易ではない。

多様性が重視される現代社会では、障害者雇用をどう考えるべきなのか。慶大日吉キャンパスで「障害者雇用の現状と将来」の講義を担当する商学部の中島隆信教授と、講義のコーディネーターを務めるNPO法人障がい者ダイバーシティ研究会の事務局長であり、長年企業や自治体で障害者雇用に携わってきた安部省吾氏に話を聞いた。

企業の担当者から雇用事例を学ぶ

講義は中島教授が、『障害者の経済学』(東洋経済新報社・2006年)を出版したのがきっかけで始まった。NPO法人の協力で、毎年春学期に日本を代表する企業の担当者から、障害者雇用の事例を学ぶ講義を13年間続けてきた。当初は商学部生のみだった対象を徐々に拡大し、近年は理工・薬学部などからの履修も可能となった。「大学での学びを将来と強く結びつけて考える、理系学生の受講態度には驚かされる」と中島教授。講義の目的については、「障害者雇用にとどまる話ではないが、社会人になると自分の所属する組織や業界に引っ張られてしまう。学生のうちに社会全体にとって望ましいことは何かを、批判的に考察してもらいたい」と語った。

中島隆信教授(=提供)

障害VS障がい・障碍

障害には、医学的な機能不全に根拠を置く「医学モデル」と、社会の側が障害を作っていると考える「社会モデル」の2種類の考え方がある。
近年、障害者の「害」の字を避けようと、「障がい」「障碍」という表記も広がりつつある。本記事では固有名詞を除き、法律や中島教授の著書で用いられている「障害」で統一するが、表記の変化には、障害の「社会モデル」を受け入れようとする社会の側の意識の変化が込められているといえる。

障害者雇用にコスト&ベネフィットの視点を

本の出版当時は、障害者の就労と地域での生活の促進を目的とし、福祉サービスの一元化によって、利用者に一定の負担を課すことを定めた「障害者自立支援法」が成立したばかり。「障害者へ自立を求めることに社会的な批判が強まる中、学問的に考察する必要性を感じた」と中島教授は話す。教授の専門である経済学の視点から、障害者雇用をするにあたって企業が負担する配慮にかかるコストと、障害のある人が働くことで得られる社会的なベネフィットを天秤にかけ、後者の方が大きいときのみ積極的に雇用すべきだという考え方を生み出した。

中小企業で精神・発達の人を戦力に

現在、障害者雇用に熱心に取り組むのは大企業が中心だ。中小企業は地域密着を生かして、精力的な雇用を行っていた時代もあったが、障害者の担ってきた単純作業が機械に置き換わったことから、業務の切り出しが難しくなった。「問題解決には、精神・発達障害の人を雇用し、即戦力とすることが求められる」と中島教授は語る。「精神・発達障害の人の中には働くことをあきらめている人も多いが、企業側が短時間勤務などの働き方改革をすることで、戦力となりうるのでは」と期待する。

配慮に見合わない現状も

障害者雇用では、業務に必要な配慮をしても、障害者がすぐに戦力となれるわけではない。中島教授は、「特定の部署に負担を課すのではなく、経営陣も含め、長期的な視点で施策を進めることが肝心だ」と話す。一方、安部氏は、「余裕のない企業は、雇用率未達成の企業に課される納付金を支払った方が、金銭的な負担が少なく、やむを得ないこともある」と厳しい現実をあらわにする。「まだ困難も多いが、ゆくゆくはドイツのように、必要な配慮を怠った雇用主に対して、障害者自ら請求権を行使できる仕組みを検討したい」と語った。

安部省吾氏(=提供)

コロナ禍で大変革を迫られた雇用の現場

新型コロナウイルスの影響で、障害者の働く環境は、困難に直面している。特に知的障害者は、清掃、郵便物、書類整理などの間接作業を中心に担っていたが、テレワークの普及などで実質的な業務量が大幅に減少した。安部氏は「コロナ禍で失ったものも大きいが、今後は情報通信技術を活用が進むだろう。遠隔分身ロボットを用いれば、地方在住や外出の困難な障害者が自宅のパソコンを通して遠隔操作し、会話や身体労働を伴う業務に従事することを可能になる。障害者の在宅勤務の進展に注目していきたい」と期待する。

慶大はダイバーシティ&インクルージョンを目指せるか

障害をはじめ、国籍や性的指向、価値観でカテゴライズされることなく、人々が活躍することを、ダイバーシティ&インクルージョンという。将来的に多様な人材がいない組織には新しい発想が生まれず、脆弱性が高まるとの指摘があるが、慶大ではこれらが進んでいるか。

慶應義塾の発表によれば、2021年9月現在、障害のある義塾職員を60人雇用している。全職員約3200人の2%に満たない数だ。教員約2800人については、障害の有無の内訳すら発表されていない。「慶應義塾はキャンパスがいくつにも分かれ、学部の縦割り意識も強いため、障害者雇用に集中して取り組む現場がない。雇用率達成や障害者の雇用方針について、何も示されていないことが問題だ」と中島教授は指摘する。

例えば、早大は、「早稲田大学ポラリス」と呼ばれる特例子会社を設置し、障害者に向けて、清掃や書類封入の業務を切り出して、雇用の場を確保している。具体的な取り組みの進まない慶大とは雲泥の差だ。

慶大生の中にも障害者はいる

「累計3000人近い履修生の中には、講義の感想文に『私は○○障害者です』と記してきた人もいる」と安部氏は語る。慶大にも発達障害などの障害を持つ塾生が在籍することを忘れてはならない。

慶大では秋学期から、障害のある塾生を義塾全体で支援する「障害学生支援@easeプロジェクト」が始まる。10月20日には三田キャンパス北館ホールにて、中島教授・協生環境推進室・D&I社共催で、発達障害のある塾生向けに、「誰でも戦力になれる!塾生向け雇用セミナー~中小企業での事例を通した障害者雇用の可能性~(仮称)」も開催される予定だ。障害者との共生を身近なものとして考える第一歩としたい。

(菊地愛佳)