今年も蒸し暑い夏がやってきて、怪談の盛り上がる季節になった。そこで、手相占いやオカルト、怪談で活躍されている島田秀平さんに、この夏をもっと楽しめる怪談の魅力を聞いた。

怪談との出会い

怪談に興味をもったきっかけは、小学校低学年の担任の先生にあります。ちょっと変わった先生で、よくカーテンを閉め切った教室で怪談を話してくれたんです。小学生だった僕は「怖いな」と思うと同時に、「しゃべりだけでみんなの感情を揺さぶるなんて、怪談はすごいエンターテイメントだな」と感心したのを憶えています。以降、夏休みの自由研究では幽霊の研究をやって、夜の墓場に幽霊が出るのかをノートにつけていました。芸能界に入ってからも、芸人仲間と怪談ライブをするなど、僕にとって怪談の歴史はかなり深いです。

オカルトは社会を写す鏡

一口に怪談といっても、その種類はいろいろあります。典型的なのは幽霊が出てくる話ですけど、最近では生きている人間が一番怖いという人怖(ひとこわ)、意味がわかると怖い話といったジャンルも人気になってきました。

また、怪談には教育、しつけとしての側面もあったと言われています。たとえば、学校の七不思議。音楽室からピアノが鳴ったり、理科室の人体模型が動いたり。実は、ピアノや人体模型ってとても高価なんです。放課後や夜中の学校に忍び込んではいけないというメッセージを伝えるのに、学校の七不思議はピッタリでしょう。

ただ面白いのが、怪談は単純に怖い話だけとは限らないこと。意外とあったかい、思わず涙をこぼしてしまうような怪談もあるんです。もう亡くなってしまって会えない祖父母やペットが出てきて、遺族が救われるような話もあって、そんなところが怪談のいいところだと感じています。

こうして考えると、怪談や都市伝説って、その時々の社会事情を反映しているように思えるんですよね。カーナビが普及し始めた頃にはカーナビの怖い話が流行り、『妖怪ウォッチ』が大流行したときには妖怪の怪談が増えました。最近だと、『呪術廻戦』の影響で呪物ものが大人気です。知り合いが開催した呪物展の個展に延べ12000人が来客、5時間待ちなんてこともありました。都市伝説は、噂話の広まりから生まれます。新型コロナのワクチンも、様々な憶測が飛び交った。陰謀論などは現在の世界情勢の不安の捌け口として生まれたのかもしれませんね。

怪談上手はトーク上手!?

ぜひみなさんに知っておいてほしいことなんですが、怪談を上手に話せるようになると、トークが上手になります。怪談には、話の構成や抑揚、間、緊張と緩和など、話術のテクニックがぎゅっとつまっています。ある落語家の師匠の中には、弟子をとったらまず怪談を教えるなんて方もいらっしゃいます。

具体的なテクニックは、場所や日時を明確にすること、擬音を3回使うこと、その時々の状況描写を細かくすること。場所や日時を明確にすると、話がみえてお客さんに伝わりやすくなります。たとえば「十数年前にI県のT市で……」というより「12年前の暑いお盆の時期、茨城県のつくば市で……」と言った方がいいですよね。また、怪談で擬音を3回使うと、「コツン…コツン…コツン…」といったように、より近づいてくる感覚、より気持ち悪さを表せます。あとは、その時々の状況描写を細かく話すと、お客さんがその場所を想像してくれて伝わりやすいですね。

僕は、怪談師は、目的地(恐怖体験をした場所)にお客さんを連れていくガイドさんだと思っています。聞いているお客さんのペースに合わせて、丁寧に話してみたり、ちょっと話しかけてみたりもします。これは怪談だけでなく、漫才やトーク全体にも通じるものだと思いますね。また、話すこと全般で言えることですが、上手に話すことがすべてではなく、伝わることが一番大事です。特に怪談は、お客さんの怖がるリアクションが伝わっているかのバロメーターになるので、トークのよい練習になると思います。

あなたの霊感は何タイプ?

実は、霊感は誰にでもあるという話があります。よく、霊をみたことがある=霊感があると思われていますが、実際には人には霊感の得意分野があって、聞こえるタイプやにおいで感じるタイプの方もいます。たった一つの質問でその得意分野がわかるので、みなさんもぜひやってみてください。
「あなたは、昨日の晩御飯に何を食べましたか?」
思い出せましたか?実は、これは何を食べたかはどうでもいいんです(笑)。大事なのは、過去を思い出すときにどこを見るか。上を向いて考えた人は、視覚タイプ。心霊スポットに行ったとき見えやすい人です。横を向いて考えた人は、聴覚タイプ。心霊スポットで、鈴の音や人の声が聞こえてしまうかもしれません。微動だにしなかった人、正面を向いて考えた人は、においタイプ。心霊スポットでは、お線香のにおいや、生臭いにおいを感じるかも。下を向いて考えた人は、体感タイプ。心霊スポットでは鳥肌が立ったり、ゾワゾワしたりする人で、このタイプの人が意外と多いです。

また、手相で霊感が強い人にみられる線があります。一つ目が「神秘十字」という手のひらの中心にある小さめな十字線。二つ目が「仏眼」という親指の第一関節の線が目のように楕円になっているもの。この二つのどちらか一つでもあれば、霊感が強い人といわれています。「神秘十字」がある人は、神秘的な力に守られていたり、運が強かったり、インスピレーションが働く人で、「仏眼」がある人は、不思議なものが見えたり感じられたりする、直観力に優れる人です。

「神秘十字」「仏眼」あなたにはありますか?

今後の望み

自分自身は霊感がないと思っているんですけど、いつかしっかりと、ばっちりと(幽霊や不思議な存在を)みてみたいですね。数多くの怪談を集め、話してきましたが、不思議な体験に立ち会ったことはあまりないんです。よく芸能人の怪談も聞いているんですけど、オカルトのイメージがない人でも怖い話を一つや二つ持っている。みんな意外と不思議な出来事を経験しているけど、気のせい、話すほどではないと思っていることが多いんだと思います。そんな世に埋もれている怪談を取材して、集めてみたいですね。また、ゆくゆくは武道館で、私のYouTubeチャンネル「島田秀平のお怪談巡り」の延長として、「お怪談まつり」なるものをやってみたいです(笑)。

怪談が愛されるわけ

科学技術の進歩により、電気が普及し、医療が発展しました。妖怪や祟り、呪いの実態も明らかになってきました。だいぶ物事が解明された今ですが、やはりまだ分からないことが残っている。オカルト雑誌で有名な月刊ムーは、意外と理数系の学生や学者から愛読されているそうなんです。科学を突き詰めた人たちも、そういうどこか分からない、未だ不明瞭な部分に興味を持つのでしょう。

「怖」という漢字は心に布と書きますよね。人間は、布がかかったような、向こうの存在が一番怖いと感じるんです。目に見えるもの、はっきり分かるものは怖くない。聞こえたような気がする、見えるようで見えない。そういう微妙な場所にあるのが怪談なのであって、そこに人は興味をもつ。これが、怪談がいつまでも愛されている理由だと思います。
確かに、怪談は怖いです。だけど、みんなで輪になって話すと、そこに怖いものを乗り越えた者同士の絆が生まれる。ひと夏のコミュニケーションツールとして、怪談を楽しんでもらえればいいなと思います。

(鬼木元子)