「やっと終わった」は一度もない

―ドラマのプロデューサーの仕事をしていて、1番ワクワクする瞬間はいつですか
完成した第1話を見た時、「やっとできた!つながった!」という気持ちになります。企画を立てて、完パケ(映像や音声の編集などが完了し、すぐに放送できる状態に仕上がったもの)を見るまでに、だいたい2年ぐらいかかるんです。その嬉しさの反面、ついにドラマが始まって、撮影と編集が放送に追われる日々を迎えることに対する怖さと緊張感もあります。第1話に限らず、編集が終わった状態の作品を見るのは、いつも嬉しいです。

―最終話の放送を終えるとどんな気持ちになりますか
最終話の放送を終えると、達成感よりも物足りなさを感じます。今まで「やっと終わった」と思ったことはありません。なぜなら、その後の仕事が膨大にあるから(笑)。

1番大きなお仕事はお金の計算です。スタッフやキャストのギャラなど、どれくらいお金を使ったのかという収支報告をするという地味だけど大事な仕事があるんです。クオリティーとは関係ないですが、1か月くらいかけてせっせとやります。ほかにも、DVD-BOXの発売に向けて、特典映像やブックレットの内容の決定をしたり、配信用にディレクターズカットを作るために、ディレクターに編集を依頼したりします。

―放送終了後もドラマプロデューサーの仕事は続いていくんですね
クランクインの前に、(撮影が無事に終了することを祈願して)お祓いに行き、そこでお札をもらいます。それを返したら「終わる」という感覚です。

「MIU404」(2020)も「着飾る恋には理由があって」(2021)も、まだイベントが続いているので、私の中では、まだ終わっていません。俳優さんがその役で生きている感覚が続いています。例えば、川口春奈さんのことを(「着飾る恋には理由があって」の役名の)「くるみちゃん」と呼んでしまうんです(笑)

キャスト・スタッフとのコミュニケーションを大切に

―「MIU404」や「着飾る恋には理由があって」など、新井さんがプロデューサーを務める作品には、塚原あゆ子さん(TBSスパークル)とタッグを組んだものが多く、俳優陣や視聴者から信頼と期待が寄せられています。プロデューサーの仕事の一つに、一緒に作品を作るスタッフを選ぶことが挙げられますが、新井さんが考える塚原あゆ子さんの魅力を教えてください

新しいことに挑戦しようという気持ちを常に持っている人だと思います。全く台本に無いものを補って、魅せようとするんです。例えば「MIU404」の第1話で、事件解決後に幼い女の子が水たまりに足をピチャンと入れるシーンがあります。これは台本に無いものでしたが、塚原さんは、そのシーンに(米津玄師さんの主題歌「感電」の)サビを流すことを計算して作っていました。繊細なカットの撮り方や編集も魅力です。

シーンの演出は、「気持ち」で伝える人。撮影しているシーンで、登場人物に歩いてほしい場合、役者さんに「歩いてほしい」と直接的に伝えるのではなく、歩く気持ちに自然となるようにディレクションするんです。役者さんと一緒に考え、相談しながら決める珍しいタイプではないでしょうか。

―ドラマを作るうえで大切にしていることは
一緒に飲んで、時を過ごすことは大事だったと、コロナ下で改めて感じています。撮影が早く終わった日に、スタッフ・キャストと飲みに行くことで、絆が深まり、ストレスが発散されるんです。コロナ下で飲みに行けなくなったことで、相手が何を考えているか分かりづらくなりました。現場でたくさん話すようにしています。

「人の3倍、年を取っている気がする」

―プロデューサーの仕事はやりがいもある一方で、大変なこともありますよね。
プロデューサーは、デスクワークも多い仕事です。撮影がない日はずっとデスクワークしていますし、撮影がある日は現場に行ったら、合間でデスクワークをしています。ベースというモニターの後ろでパソコンを開いて、1日に100件近く届くメールを返信し続け、撮影のテストが始まると即座にモニターを確認することもあります。他にも、予告を作ったり、EPG(番組表)に書かれる情報を作ったり、やることが膨大です。

人の3倍、年を取っている気がします(笑)

―ドラマ制作の忙しさのピークがあれば教えてください
第1話の放送前です。宣伝活動も多く、放送が始まるので心が落ち着かない感覚があります。

―忙しさを乗り切る原動力はありますか
忙しいのに、なぜがむしゃらに働くのかは、自分でもよく分からないですね。友だちからのLINEを2日ぐらい返信せずにそのままにしていたので返信しようと思い、開いてみると、1週間前だったこともあります。そう感じるくらい、時が経つのがあっという間です。

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