先月7日、慶大は2020年公認会計士試験において、慶大出身者の合格者数は169名(同前年183名)であると発表した。大学別合格者数で第1位となり、1975年から続いてきた大学別合格者数首位の記録をさらに伸ばし、46年連続となった。

公認会計士とは、企業の監査と会計を専門分野とする国家資格を持つ職種。企業経営者が株主に経営状況を報告する資料(財務諸表)の信頼性を確保するための、公正な専門家としての役割を担う。試験は合格率10%前後と狭き門だが、その合格者数で首位を守り続けるのが慶大だ。

 

慶大会計研究室長の友岡賛(ともおか・すすむ)教授は、公認会計士試験における慶大の圧倒的な強さの要因を次のように分析する。

「『慶大は会計士に強い』というイメージが根付いていることが大きい。初めから会計士試験合格を視野に入れて慶大を志す高校生が少なくなく、結果的に毎年多くの合格者を生むという好循環が見られる」

また、5000人を超える公認会計士の塾員が会計士三田会として、オフィスツアーやガイダンスに協力するなど、現役受験生のサポートを行っていることも慶大の強みだと友岡教授は指摘する。

公認会計士は慶大生から根強い人気を誇る。友岡教授は、学生からの公認会計士人気を次のように分析する。

「公認会計士という肩書きは一生ものであり、社会に出たときにその人自身の信頼性をも担保するものになる。資格を得たからといって会計士の仕事に携わる必要もなく、将来の選択肢を増やせることが学生からの人気の一因だろう。ここ数年、会計士は売り手市場であることも影響として大きい」

 

近年、AI(人工知能)に代替される職業の筆頭として公認会計士が挙げられる。実際、会計人口は減少傾向にあり、この10年間で税理士試験受験者が約40%、会計士試験受験者が約50%も減少している。会計業界へのAI進出について、友岡教授は「そこまで悲観視することではない」と指摘する。

「確かに計算を必要とする部分など、機械が代用できる仕事はAIに取って代わられる可能性もある。しかし、最終的な判断に関わるところは人間にしかできないことで、会計士は変わらず仕事としては残り続けるだろう」

AIに任せるところを任せられれば、会計士は人間にしかできない重要な判断に関わる仕事により力をさくことができる。「うまくAIを利用していけるかがポイントだろう」と友岡教授は語る。

「会計では800年以上変わることなく同じ複式簿記というシステムが使われ続けている。裏を返せばそれだけ完成度の高いシステムだといえるが、AIの導入によりこれがどう変容を遂げるのか注目したい」

 

2006年に公認会計士試験の受験資格から年齢や学歴の要件が撤廃された。そのため、高校在学中に試験勉強を進めれば、大学に入る前に合格することも可能だ。この法改正について友岡教授は「あまり良い法改正とはいえない」と眉をひそめる。

「ダブルスクールといいながら予備校での資格勉強にのみ力を入れてしまい、高校、大学での勉学がおろそかになる学生も多々見受けられる。高校生は高校生でやらなければいけないことがあるが、それを資格試験の勉強に費やすのは非常にもったいない」

こうした背景をふまえて、友岡教授は公認会計士試験合格を目指す学生に向けて次のようにメッセージを送る。

「資格試験の勉強はもちろん大切だが、授業やゼミで学ぶようなアカデミックな学びを大切にしてほしい。大学での学びは将来直接的には役に立たないかもしれないが、素養としていつか必ず意味を持つ日がくる」

 

会計研究室では、ガイダンス、講演会、監査法人見学会など、さまざまな啓蒙的なイベントを企画・実施している。学部・学年を問わず、広く門戸を開いたサポートを行っているため、会計士を目指す塾生は要確認だ。