2月1日、慶大病院と慶大医学部でApple Watchを用いた臨床研究「Apple Watch Heart Study」が開始された。米国では2年ほど前から利用されていたApple Watchの心電図アプリケーションだが、1月27日に行われたOSのアップデートにより、日本でも利用可能になった。この新機能にいち早く目を付け研究を開始したのが慶大である。本研究の実務責任者である慶大医学部循環器内科専任講師の木村雄弘先生に話を聞いた。(取材:木村珠莉)

慶大医学部循環器内科専任講師
木村雄弘先生

「Apple Watch Heart Study」は、脈拍と個人の生活習慣の関係を調査することで、異常な心電図を効率よく記録するための通知機能を構築することが目的。全国のApple Watchユーザーを対象に、以下三つのステップで研究が進められる。①睡眠中にApple Watchを装着し心拍数を計測する。②起床時に熟眠度や夜間起床回数などを問う五つのアンケートに答える。③日中、動悸を感じたタイミングで症状と心電図を記録する。Apple Watchでは他にも運動量や睡眠量など様々なデータが計測できるが、参加者がアクセスの許可をしたデータのみ収集される。

 

左図:アンケート画面 中図:動悸を記録した画面 右図:心拍数の記録画面

 

木村先生は、慶大医学部循環器内科名誉教授である小川聡先生のクリニックで、Apple Watchを利用した心臓疾患診療である「心臓ヘルスケア外来」に取り組んでいた。2019年にはアップルの最高経営責任者(CEO)、ティム・クック氏と面会し、Apple Watchを活用した医療DXは大きな注目を集めた。

「患者さんに漠然と『生活習慣を良くしましょう』と言うよりは、Apple Watch のリング(運動量などの達成度を示す円グラフ)を無理のない具体的な目標消費カロリーに設定し、『リングが一周するまで運動してください』と指示する方が達成しやすい。また同時に患者さんのモチベーション向上にもつながり、継続性にもつながる」

こうしたクリニックでの経験をふまえ、個人のデバイスにより家庭で計測されたヘルスケアデータを医療に役立てたいという思いから「Apple Watch Heart Study」をスタートした。

 

心電図は心臓に異常があるときの記録が重要である。年に一度の健康診断で心電図を計測して正常でも、記録時に心臓病の発作や症状がなければ、心臓に問題がないとは言い切れない。「異常な心電図を記録するために、24時間心電図を記録できるホルター心電図検査や家電量販店で販売されている携帯型心電図計を駆使するが、、24時間以内に異常が現れない、または動悸が出たときに限って機械を持っていないなど、異常な時を記録できない限界が早期発見における壁だった」と木村先生は指摘する。

一方、Apple Watchはその点では画期的だ。Apple Watchは心電図を記録するためだけに装着するものではない。時刻を見るため、あるいは通知を見るためなど、様々な目的で常に身に着けているウェアラブル端末だ。ちょっと気になった時に、いつでもだれでもどこでも自分の心電図を計測できるという点で、他の機器とは一線を画している。

検査が増えれば自分の身体の異常に気付けるタイミングも増え、病気の早期発見が期待できる。さらに、症状のない場合にも、「いつ心電図を取ればいいのか」を、Apple Watchが計測する日々のライフスタイルのヘルスケアデータを利用して、適切なタイミングとして通知するアルゴリズムを構築するのがApple Watch Heart Studyの目的だ。

 

(次ページ:Apple Watchを用いた健康管理の注意点)