※本記事は、本紙の7月号に掲載されたものです。

 

稲葉剛さん

 

「ステイホーム」。新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、早くからテレビや新聞はこの言葉を用いて外出自粛を喚起した。そして飲食店や宿泊施設など、さまざまな業種の店が休業に追い込まれ、多くの人の日常は失われた。4月に入ると「自粛疲れ」という言葉も生み出された。

 

そんな中、「まずは安心できるホームを」というスローガンを胸に、ホームレスの人たちの支援に力を尽くすのは稲葉剛さん。

 

バブル崩壊時に何百人ものホームレスが新宿の地下道で寝泊まりする「新宿ダンボール村」を知ったことを機にさまざまな支援を行ってきた。「人が路上で死ぬこと」に強く危機感を覚えたと話す。2014年には30人ほどで構成される「つくろい東京ファンド」という一般社団法人を設立した。

 

今回はコロナ禍においてこれまで以上に浮き彫りになったホームの大切さを聞いた。

 

稲葉さんはホームレスといっても、路上や河川敷で暮らす狭義のホームレスと友達の家やネットカフェを転々とする広義のホームレスが存在すると話す。ホームレスと聞くと前者をイメージするかもしれないが、後者のようにネットカフェで寝泊まりしている人は2017年の統計では4000人にまで達した。

 

彼らの多くはアルバイトやパートなどの低収入で生計を立てる若者だという。虐待やDV(家庭内暴力)によって家に帰れない未成年者や女性もいる。

 

緊急事態宣言の発令とともに、昼間に体を温める公共の図書館も、寝泊まりするために帰るネットカフェも失った多くの人々。そんな彼らにつくろい東京ファンドは都内に40部屋のアパートを提供したり、メールフォームによる相談を受け付けたりしている。

 

失業によって家賃が払えなくなり、すみかを追い出されそうな人々には「住まいの貧困に取り組むネットワーク」という団体として、大家や不動産業者に緊急時の対応を促す。

 

しかし、政府のホームレスへの援助が希薄なことからも、なかなか全ての人に住む場所を提供することは難しいのが現状だ。

 

また、稲葉さんは住む場所を提供する際にも細心の注意がなければ根本的解決には至らないと言う。ホームレスの人たちの3人に1人は精神疾患や知的障害を患っており、施設の相部屋によるいじめなどが原因で自ら路上に戻ってしまう人も多いからだ。

 

これでは支援をしても無意味に終わってしまうため、「個人を尊重する住まい」への考え方の転換が必要とされている。

 

新型コロナが流行している今でも、身を安全に守れる家のない人々。稲葉さんは彼らについて、人権である「住まい」がない人がいることを見過ごしてはならないと強く主張するとともに、「どんな人でも希望すれば安心して暮らすことのできる社会になってほしい」と語る。

 

新型コロナによって顕著になった社会格差、そしてこの厳しい実態を目の当たりにして、私たちには一体何ができるだろうか。

 

ホームレスの人たちに食料や住まいを提供する直接的支援は学生には難しいかもしれない。しかし、安心して暮らせる家があることに感謝をして生きること、このような団体のサポートに回ることなど、できることはある。少なくとも「ステイホーム」の言葉の裏で、今も苦しんでいる人々がいる事実を忘れてはならない。

 

(古嶋凜子)