政府の補助金制度と低燃費などから続くエコカー人気。更に近頃では三菱自動車の「i-MiEV」、富士重工業の「スバル プラグイン ステラ」と電気自動車の発表、発売が相次いだ。CO2削減のカギを握るとされる電気自動車。これまでの自動車とどう異なるのか。メリットやデメリットは。普及に向けての課題とは。環境情報学部清水浩教授と政策・メディア研究科眞貝知志助教にお話を伺った。
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「先見の明を持った開発を」

ガソリン自動車と電気自動車の違いとは。眞貝助教は次のように話した。「前者が19世紀型技術を利用しているのに対し、後者は21世紀型技術を利用している」
21世紀に入り量子力学に基づいて発明された技術が実用的なレベルとして応用可能となり、高出力のバッテリーやモーターの開発ができるようになった。これによりエネルギー効率と走行性能が大幅に向上し、エコな電気自動車が実現可能となった。
車輪にモーターが内蔵される「インホイールモーター」や、電池・インバーターなど走行に必要なすべての部品を床下に収めたプラットフォームからなる形式を「シムドライブ」と呼ぶ。清水教授の開発であるこの形式の電気自動車は、火力発電が主力の現在でも、ガソリン自動車の約4分の1のCO2排出量となる。また、インホイールモーターは効率が高いだけでなく、広い車内空間も確保することができる。また、モーターは低速から高速まで幅広い領域で最大トルク(ねじりの強さ)を発生させるため、変速機も不要となり、ガソリン車より優れた加速度を低速から高速まで維持することが可能だ。
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性能、快適性、走行コスト、各点においてガソリン自動車を上回る電気自動車は今後普及していくだろう。だが、電気自動車の普及には解決していかなければならない課題もある。
まず一つがリチウムイオンバッテリー。普及当初はバッテリーが非常に高価である。その上、現状市販されている「改造型電気自動車」は車両の効率が低いため、現状の電池性能では航続距離が160㌔程度と十分ではないことや、急速充電器による補給場所の不足が問題としてあげられる。
バッテリーの価格低下は量産化によるコストダウンを待つしかない。ただ、電気自動車の普及を目指すために設立された「株式会社シムドライブ」では、バッテリーをレンタルし、走行量に応じて電気代と使用料を支払うというモデルを打ち出している。また、シムドライブ式の電気自動車ならば、車体の効率を十分に高めることにより、現状の電池性能でも300㌔という十分な航続距離を実現できる見込み。
後者の問題はどちらもインフラによるものだ。航続距離が短い以上、今よりも多くの補給場所が必要となるだろう。補給場所が少ない現状について清水教授は「携帯電話も利用者のニーズによってインフラが拡大した。インフラは利用者のニーズを反映する。電気自動車に対するニーズが高まれば自然とインフラも整う」と語る。
もう一つが社会的な問題だ。自動車産業は日本経済を支える大きな柱。それは自動車産業が鉄鋼などの原材料、自動車部品に加え、イベント産業まで幅広い関連産業をもつからである。しかし、電気自動車の持つ部品の少なさという利点は、自動車部品を扱う中小メーカーの倒産を招く恐れもあるだろう。そういった流れが広がれば、日本経済全体への悪影響につながる。電気自動車の普及にはインフラの整備、車体コストの低下のほかに自動車部品メーカーの受け皿の用意が必須となる。
この点について眞貝助教は「重要な問題。ただ新技術が普及すると市場は拡大する。これまでと同じ部品の生産とはいかないだろうが、市場が増えた分新しい需要も生まれる。先見の明を持ってこうした開発に取り組むよう、我々の方でも助言している」とのこと。
「21世紀に入ってから使えるようになった技術で環境問題は抜本的に解決可能だ。これらの技術の存在を多くの方々に知ってほしい。そのうえで普及実現に向けた世論形成と、それに基づく政策展開を行うことによって産業も活性化し、エネルギーの心配がいらない社会ができる。そうして世界に平等にエネルギーが行き渡ることを実現できる」と語る。
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環境問題への対応のため電気自動車の普及は世界的な課題だ。現在の技術では環境問題を解決できる状況にあるのに、世間の認識不足により環境問題の解決に向けた取り組みが遅れている。優れた技術を無駄にしないよう環境に対して関心を高める必要があるのではないか。
(永井俊行)